学会誌JSPEN
Online ISSN : 2434-4966
学会参加記
ESPEN2023(欧州静脈経腸栄養学会)参加報告
奥村 仙示
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2024 年 6 巻 3 号 p. 161-162

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フェローシップ賞受賞

2021年7月に開催された第36回日本臨床代謝栄養学会は,COVID-19で開催の時期や方法が模索される流動的な状況の中,多くの方々の御尽力によって,ハイブリット学会として開催されました.私自身は3度目の挑戦での嬉しい受賞でした.初回,2回目は,学生の頃から長年取り組んできた,肝疾患患者の間接熱量計を用いたエネルギー代謝のテーマでした.3回目はテーマを大きく変え,「メタボローム解析を用いた対面の聞き取りを必要としない栄養検査法の開発―肉類と魚介類―」についての発表での受賞となり,今後の研究の背中を押していただける励みになりました.

間接熱量計と共に過ごした研究生活

卒業研究で,敷地内に併設されている徳島大学附属病院に行き始めました.当時,管理栄養士が病棟に行くことは稀で,何かできる知識も経験もなく,自分自身も何をしていいかわからず,病棟にいるだけで緊張し気配を消していたような気がします.間接熱量計をベッドサイドに運び,エネルギー代謝を測定し,摂取エネルギー量を聞き取り,疾患と臨床検査値を1測定ごとに照らし合わせることの繰り返しでした.インターネットで検索できる時代でもなかったので,情報収集のため図書館に頻繁に通っていましたが,栄養評価や栄養療法に関する情報は少なく,なかなか探せません.また,間接熱量計の意外な盲点として,明確な正常値がないのです.機種ごとに測定値が大きく異なります.今も昔も栄養評価の基本ツールであることは変わりませんが,正確な測定にはある程度の経験が必要で,エネルギー消費量と基質をおおよそ理解する役割にとどまると感じました.

学生時代,肝硬変患者に「高エネルギー,高蛋白質,高ビタミン」の栄養指導を教科書で習いましたが,それは,アルコール性肝硬変に対しての結果を参考に作成されています.日本人に多いウイルス性肝硬変を間接熱量計で調べてみると,肝硬変患者は夜間飢餓になっており糖質を利用できないのではなく,グリコーゲンとして肝臓に蓄積が不足しているので,就寝前夜食(Late Evening Snack;以下,LESと略)療法ということを提案できました.現在のガイドラインにLESが用いられるようになり,「普通エネルギー,普通蛋白質,LES」とする食事療法に直結の研究になりました.

メタボロミクスを用いた栄養検査の構築を着想した経緯

間接熱量計でエネルギー代謝を測定してきて,もっと客観的で網羅的な情報を得たいという枯渇感がありました.そのようなタイミングでメタボロミクスに出会い,メタボローム解析を用いて臨床栄養研究をしたいと思いました.また,対象者から食事を聞き取る食事調査は,信頼関係を築き,正確に聞き取る技術を上げたとしても,計算に時間を要します.対面のていねいな聞き取りは重要ですが,主観的ではなく客観的な「栄養検査」を構築したいと思いました.何をどのくらい食べたかわかるため,日本食品特有のバイオマーカーを探索し,コホート研究で答え合わせをする循環をさせたいと思っています.得られた結果は,遠隔地栄養指導,ヘルスケア,フードテックに関わる,データサイエンスの基本のためのデータベース作成につながると期待しています.

内容を紹介させていただきます.海外で赤身肉摂取が動脈硬化や心疾患を引き起こす作用があると報告されたことから,赤身肉論争が起こりました.現在,原因物質として考えられているTrimethylamine N-oxide(以下,TMAOと略)は,赤身肉,卵,チーズに含まれるコリンやL-カルニチンの腸内細菌による代謝産物です.しかし,TMAOはそもそも魚介類に多く含むので,日本人において,TMAO抑制のため,赤身肉を制限するという栄養指導は成立しません.メタボローム解析を用いた肉類や魚介類の食品分析,負荷試験,疫学調査を通して肉類と魚介類に関する「栄養検査」について考察することができました.このように,海外での報告の結果のみを直輸入すると,日本食は日本独特の食材と食文化がありますので,指針が日本人にとって適さないことをいくつか経験してきました.自分の研究テーマに向き合うときには,基本になるデータを自分の目で見て,自分の頭で考えるという基本を今後も大切にしていきたいと思います.

ESPEN現地参加の楽しさ

2023年ESPEN(リヨン,フランス)に参加することができました.私自身,4年ぶりの国際学会現地参加になりました.個人的にも,2023年4月より徳島大学から同志社女子大学へ異動したため,出張手続き含めて,初心に戻っての参加になりました.臨床栄養研究に取り組むJSPEN会員の方々に会い,発表の質疑応答をしていただけ,モチベーションが高まりました.学会中はもちろんのこと,帰国後この報告を書きながら,学会での出来事を思い出し,二度楽しい参加になりました.改めまして,多くの共同研究者と歴代の学生の皆様に深謝申し上げます.

写真1.ESPEN学会会場
写真2.ポスター発表
 
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