2025 年 7 巻 1 号 p. 3-8
本研究は,従来の嚥下調整食よりエネルギー量が高い「つるん食」の導入が3食経口摂取達成に与える影響を明らかにすることとした.対象は摂食嚥下リハビリテーション(以下,嚥下リハと略)を実施した嚥下障害患者64名とした.嚥下リハ時につるん食を摂取した群(つるん食群)と摂取しなかった群(従来食群)の2群に分類し,Propensity Score Matchingで患者背景を揃えた結果,最終的な解析対象者は46名(男性19名,女性27名,平均年齢85.8歳)となった.3食経口摂取移行率は,つるん食群が従来食群より有意に高かった(73.9% vs 30.4%,p < 0.01).ロジスティック回帰分析の結果,つるん食(OR = 13.9,95% CI 2.45–78.5,p < 0.01)は3食経口摂取移行に有意に影響を与えた.つるん食を使用した摂食嚥下リハは3食経口移行率を高める可能性が示唆された.
The aim of this study was to examine the impact of introducing a “Tsurun diet,” which is composed of foods classified as 2-1 or lower in the Japanese Society of Dysphagia Rehabilitation classification code and has a higher energy content than conventional dysphagia diets, on achieving full oral intake. The subjects were 64 patients with swallowing disorders who were hospitalized and underwent dysphagia rehabilitation between April 2018 and March 2023. Patients were divided into two groups: those who received a Tsurun diet (Tsurun diet group) and those who received a conventional dysphagia diet (conventional diet group) during swallowing rehabilitation. After propensity score matching to adjust baseline characteristics, the final analysis included 46 patients (19 men, 27 women, mean age 85.8 years). The Tsurun diet group had a significantly higher rate of transition to full oral intake compared to the conventional diet group (73.9% vs. 30.4%, p < 0.01). The Tsurun diet was significantly associated with a higher rate of transition to full oral intake (OR = 13.9, 95% CI 2.45–78.5, p < 0.01). These results show that Tsurun diet intervention was effective in promoting full oral intake.
高齢化に伴い嚥下障害患者は増加している.入院患者の嚥下障害の有病割合は,急性期で26%1),回復期で43%2)と報告されている.嚥下障害発症の主な原因は,脳血管疾患や神経変性疾患3)などに加え,近年では全身性のサルコペニアによる嚥下障害4)も一つの原因と考えられている.入院患者のサルコペニアの有病割合は高いことから5),サルコペニアや低栄養を併存した嚥下障害患者の増加が推測される.このように,嚥下障害の原因は多様化しており,嚥下障害の原因に応じた治療を行う必要がある.
摂食嚥下リハビリテーション(以下,嚥下リハと略)は,嚥下障害患者の嚥下機能回復を目的とした代表的な治療である6).嚥下リハは,主に間接訓練と直接訓練に大別される.間接訓練は食品を使用しない訓練である一方で,直接訓練は食品を経口摂取することで嚥下機能の回復を図る訓練である7).直接訓練に使用する一般的な嚥下調整食(以下,嚥下食と略)は,嚥下障害の重症度に合わせた食品の物性調整を目的としており,嚥下食の加工時に加水および粘度調整を行う8).加工時の加水工程は,食事に含まれる栄養素を希釈し,エネルギー等の栄養価を減少させるため,嚥下食のみでの食事摂取ではエネルギーや蛋白質などの栄養素の摂取量が減少する9).このように,嚥下リハ時に使用する嚥下食は栄養価が不足していることが課題である.
嚥下障害患者の栄養摂取は,嚥下食に加え,Parenteral Nutrition(以下,PNと略)やTube Feeding(以下,TFと略)による非経口的な栄養管理を併用することが多い10).これは,従来の嚥下食のエネルギー量が極めて低く,非経口的な栄養管理の併用を避けられないことが原因である.非経口的な栄養管理に伴う摂食嚥下動作の制限やTFは,嚥下関連器官の廃用を惹起し11,12),嚥下機能の回復を阻害する.従って,嚥下食のエネルギー量を増加させ,非経口的な栄養管理の併用を少なくすることができれば,嚥下機能の回復を促進できる可能性がある.我々は,従来の嚥下食よりエネルギー量が多く,食事内容を日本摂食嚥下リハビリテーション学会嚥下調整食分類2021(以下,コード表記と略)のコード2-1以下で構成した「つるん食」を導入した.本研究の目的は,嚥下障害患者を対象にエネルギー量を増加させた嚥下食を使用した経口摂取主体の嚥下リハが,嚥下機能回復を促進し,3食経口摂取達成に与える影響を明らかにすることとした.
対象は,2019年4月~2023年3月の間に医療法人誠心会吉田病院へ嚥下リハ目的で入院した患者のうち,嚥下リハで直接訓練を実施した患者とした.除外基準は,入院時の直接訓練に使用する食事形態がコード2-2以上の患者,データ欠損者とした.本研究は,長岡中央綜合病院倫理委員会の承認を得て実施した(受付番号 第627号).
2. 調査項目対象者のデータ収集は,ベースラインを入院時とし,終了点を嚥下リハ終了日とした.嚥下リハ終了の定義は,3食経口摂取が可能となった日,または医師により嚥下リハの継続が困難と判断され,嚥下リハの中止指示が出た日とした.調査項目は診療録から調査した.
ベースラインの調査項目は,年齢,性別,Body Mass Index(以下,BMIと略),脳血管疾患と廃用症候群の診断有無,意識障害,栄養状態,嚥下障害の重症度,入院前絶食期間とした.意識障害は,Japan Coma Scale(以下,JCSと略)を使用して評価し,I-0(意識清明)のみを意識障害無しと定義した13).栄養状態は,Geriatric Nutritional Risk Index(以下,GNRIと略)14)を使用して評価した.GNRIは,血清アルブミン,現体重,理想体重を用いた計算式で高齢者の栄養状態をスクリーニングする指標である.嚥下障害の重症度は,Food Intake LEVEL Scale(以下,FILSと略)15)を使用して評価した.FILSは,摂食状況から摂食機能のレベルを10段階で評価する指標である.
1) つるん食を用いた嚥下リハ本研究では,コード2-1相当の食品で構成した「つるん食」を導入した(表1).学会分類コード2は,なめらかで均質なものを2-1,粒を含む不均質なものを2-2としており,栄養量の工夫が必要であるとされている16).つるん食導入前の嚥下リハ初期の直接訓練内容は,コード2-1相当の食品(80 kcal)を1日1回提供していた.そのため,直接訓練の回数が少なく,エネルギーを補うために,PN・TFを併用する必要があった.また,従来の嚥下リハ時は,嚥下機能の改善に合わせて,摂取エネルギー量を増加させるために,コード2-2の嚥下食による嚥下リハへ移行する必要があった.しかし,当院では嚥下リハ時間を,対象者の嚥下リハに対する耐久性を考慮した上で1時間以内を目安としていることから,食事提供量の増加も従来の嚥下食の問題点であった.一方,つるん食は従来の嚥下食よりも栄養価が高く,コード2-1以下で構成されているため,嚥下リハ初期から提供可能である.本研究では,つるん食の使用を食事形態の適正を考慮し,主治医の判断に応じて決定した.嚥下リハ時につるん食を使用した患者を「つるん食群」とし,つるん食を使用しなかった群を「従来食群」とした.
メインアウトカムは3食経口摂取移行(以下,3食経口摂取と略)の可否とした.3食経口摂取は,コード2-2の食事を3食経口摂取可能であり,PN・TFを併用せずに必要栄養量を充足した患者と定義した.必要栄養量の設定は目標体重 × 25~30 kcalに設定した17).また,セカンダリーアウトカムとして,直接訓練回数と経口摂取者の嚥下リハ期間,嚥下リハ期間中のPN・TF併用期間(日),PN・TF併用期間割合(%)を算出した.経口摂取者の嚥下リハ期間は,入院日から3食経口摂取までの期間とした.嚥下リハ期間中のPN・TF併用期間は,嚥下リハ期間中にPN・TFを併用した日の合計とし,PN・TF併用期間を嚥下リハ期間で除した値をPN・TF併用期間割合とした.
3. 統計解析各変数をKolmogorov-Smirnov検定を使用して正規性を検定し,正規性に応じて平均値(±標準偏差),中央値(四分位範囲)で示した.また,頻度(%)を算出した.つるん食群と従来食群の2群間の比較は,正規性に応じてMann-WhitneyのU検定または対応のないt検定を使用した.次に,つるん食群と従来食群の患者背景を揃えるために,年齢,性別,BMI,脳血管疾患・廃用症候群の有無,意識障害,GNRI,FILS,入院前の絶食期間を交絡因子としたPropensity Score Matching18)を行った.その後,つるん食が3食経口摂取へ与える影響を明らかにするために,3食経口摂取に対するロジスティック回帰分析を行った.交絡因子は年齢,性別,FILSとした.加齢は嚥下関連筋力の低下と関連し19),また,嚥下機能障害には性差が存在することから20)これらの交絡因子を選択した.有意水準は5%未満とし,統計解析にはEZR(Version1.64)を使用した.
研究対象者は64名であり,つるん食群36名(56%),従来食群28名(44%)であった.Propensity score matching後の最終的な解析対象者は46名(つるん食群23名,従来食群23名)となった.表2にPropensity score matching前後の対象者特性を示した.
Propensity score matching前 | Propensity score matching後 | |||||
---|---|---|---|---|---|---|
つるん食群 | 従来食群 | p値 | つるん食群 | 従来食群 | p値 | |
N = 36 | N = 28 | N = 23 | N = 23 | |||
年齢,mean(SD) | 84.8(8.0) | 85.8(7.8) | 0.622 | 85.6(6.5) | 86.0(7.8) | 0.854 |
男,N(人)(%) | 13(36.1) | 13(46.4) | 0.450 | 10(43.5) | 9(39.1) | 1.000 |
女,N(人)(%) | 23(63.9) | 15(53.6) | 13(56.5) | 14(60.9) | ||
BMI,mean(SD) | 17.5(3.0) | 17.3(3.0) | 0.797 | 18.0(2.3) | 16.7(2.9) | 0.100 |
脳血管疾患,N(人)(%) | 19(52.8) | 14(50.0) | 1.000 | 13(56.5) | 10(43.5) | 0.556 |
廃用症候群,N(人)(%) | 15(41.7) | 13(46.4) | 0.801 | 9(39.1) | 12(52.2) | 0.554 |
意識障害有,N(人)(%) | 31(86.1) | 26(92.9) | 0.454 | 23(100.0) | 22(95.7) | 1.000 |
GNRI,mean(人)(SD) | 78.5(9.1) | 82.3(9.3) | 0.104 | 81.1(9.4) | 81.1(8.6) | 0.987 |
FILS,median[IQR] | 4[2,4] | 4[2,4] | 0.864 | 3[2,4] | 4[2,4] | 0.781 |
入院前絶食期間(日),median[IQR] | 7.5[0.0,16.3] | 1.0[0.0,14.3] | 0.248 | 7.0[0.5,14.5] | 1.0[0.0,15.0] | 0.606 |
略語:BMI,Body Mass Index;GNRI,Geriatric Nutritional Risk Index;FILS,Food Intake Level Scale;SD,Standard Deviation;IQR,Interquartile Range.
3食経口摂取者数は,従来食群7名(30.4%)に対し,つるん食群17名(73.9%)とつるん食群で有意に多かった(p = 0.007)(表3).1日の直接訓練数は,従来食群0.7[0.5,1.1]回に対し,つるん食群2.2[1.9,2.5]回とつるん食群で有意に多かった(p < 0.001).嚥下リハの訓練期間,嚥下リハ期間中のPN・TF併用期間(日)は有意な差を示さなかった.嚥下リハ期間中のPN・TF併用期間割合は,従来食群100%[100,100],つるん食群63.2%[50.0,90.8]とつるん食群で有意に少なかった(p < 0.001).
つるん食群 | 従来食群 | p値 | |
---|---|---|---|
N = 23 | N = 23 | ||
3食経口摂取移行者数,N(人)(%) | 17(73.9) | 7(30.4) | 0.007 |
経口摂取移行者の訓練期間(日),median[IQR] | 27.0[21.0,33.0] | 26.0[17.5,70.5] | 0.824 |
1日の直接訓練数(回),median[IQR] | 2.2[1.9,2.5] | 0.7[0.5,1.1] | <0.001 |
リハ期間中のPN・TF併用期間(日),median[IQR] | 18.0[13.0,26.0] | 20.0[16.5,40.5] | 0.147 |
リハ期間中のPN・TF併用期間割合(%),median[IQR] | 63.2[50.0,90.8] | 100[100,100] | <0.001 |
略語:PN,Parenteral Nutrition;TF,Tube Feeding;IQR,Interquartile Range.
3食経口摂取を目的変数としたロジスティック回帰分析の結果,つるん食(オッズ比13.9,95% Cl 2.45–78.5,p = 0.003)は有意に3食経口摂取に影響する因子であった(図1).
本研究は嚥下障害患者を対象に,エネルギー量を増加させた嚥下食「つるん食」を使用した経口摂取主体の嚥下リハが3食経口摂取達成に与える影響を分析した.その結果,嚥下リハ時につるん食を使用することで,3食経口摂取者数を有意に増加させることを明らかにした.また,つるん食を使用した直接訓練は,3食経口摂取者数の増加に加え,直接訓練回数を有意に増加させ,PN・TFの併用期間を減少させた.
嚥下リハの直接訓練にエネルギー量を増加させた嚥下食「つるん食」を使用した経口摂取主体の嚥下リハは,3食経口摂取者数を有意に増加させた.嚥下障害患者の嚥下機能の改善には栄養状態の改善が必要である10).曽野らは,嚥下障害患者の経口摂取達成者は,非経口摂取者と比べ,経口摂取からの必要エネルギーの充足割合が高く,継続的に経口からエネルギーを摂取していたと報告している21).また,嚥下リハ時に使用する食事形態は食事摂取量へ影響する16).本研究において,つるん食群はリハ期間中のPN・TF併用期間割合が従来食群と比較し低かったことから,つるん食の食事形態は嚥下リハ患者の嚥下機能に適しており,経口からの栄養摂取量増加に寄与した可能性が考えられる.さらに,つるん食の経口摂取による生理的な栄養摂取が栄養状態を改善させ,嚥下機能改善に寄与した可能性がある.嚥下機能の改善には栄養摂取方法も影響する.PN・TFでの栄養管理は,経口摂取と比較して,摂食嚥下関連器官の廃用が進行する11).一方で,Ikegamiらは,嚥下リハを実施した脳血管疾患患者において,早期から経口摂取を開始した患者の方が退院時に経口摂取を達成する割合が高かったことを報告している22).加えて,小山らは,経口摂取以外の代替栄養を必要とする脳血管疾患患者において,嚥下リハ初期からの経口摂取が退院時の経口摂取率を有意に高めたことを報告している23).さらに,岡田らは,主たる栄養管理がPN・TFの直接訓練を実施した嚥下リハ患者において,3食経口摂取を達成した群は非経口摂取群と比較して,嚥下リハ期間中の経口摂取量が増加したことを報告している24).これらの研究は,早期からの経口摂取の有効性に加え,エネルギー必要量のうち経口からの栄養摂取量が多いことが栄養状態の改善を促進させ,嚥下機能改善に寄与した可能性も否定できない.従って,つるん食は,経口摂取による生理的な栄養摂取量が増加したことにより効率的に栄養状態が改善し,3食経口摂取を促進した可能性が考えられる.
つるん食の導入により直接訓練の回数が有意に増加した.摂食嚥下には複数の嚥下関連筋が関与しており,直接訓練は嚥下関連筋の強化や嚥下反射を促進する代表的な嚥下訓練の一つである25).嚥下リハを必要とする重度の嚥下障害患者では,コードの低い食品から直接訓練を開始する16).本研究の対象者は,つるん食群と従来食群ともにFILSで中央値3と重度の嚥下障害患者であった.つるん食はコード2-1相当の食品で構成しており,重度の嚥下障害患者にも適した食形態である.さらに,提供回数の増加により直接訓練の回数が増加したことで,経口摂取に必要な嚥下関連筋の強化や嚥下反射を促通したと考えられる.古屋らは,才藤の摂食・嚥下障害臨床的重症度分類で食事形態の調整や代替栄養の併用を必要とした嚥下障害患者の嚥下リハについて,直接訓練の実施が嚥下機能改善に影響する因子であることを報告している26).また,嚥下回数の減少は嚥下関連筋の筋力を低下させることが報告されている12).本研究では,つるん食群の直接訓練回数が従来食群と比較して有意に増加したことから,直接訓練回数の増加が嚥下関連筋の強化や嚥下反射の促通に寄与した可能性が考えられる.
本研究は,導入したつるん食が3食経口摂取者を有意に増加させることを明らかにした研究である.一方で,本研究には幾つかの限界がある.第一に,本研究は単一施設で実施された研究であり,他施設での一般化には注意を要する.第二に,サンプルサイズが小さいことにより疾患や嚥下機能での層別化解析が困難であった.第三に,3食経口摂取に影響をおよぼす要因である喫食率を調査していなかった24).第四に,本研究ではPropensity Score Matchingを実施することで患者背景を揃えたが,嚥下障害発症から栄養療法開始までの期間27)や認知機能28),口腔機能29)などの重要な交絡因子を調整することができなかった.そのため,Propensity Score Matchingで調整できなかった因子による,患者選択バイアスが存在している可能性がある.今後は,これらの研究限界を考慮した分析が必要である.
本研究の結果から,嚥下障害患者を対象に,エネルギー量を増加させた嚥下食「つるん食」を使用することで,3食経口摂取者数を有意に増加させることを明らかにした.今後は,より多くの施設や対象者でつるん食の有効性を明らかにするための介入研究が必要である.
本論文に関する著者の利益相反なし