聖マリアンナ医科大学横浜市西部病院
2. 研修期間2024年9月3日~9月6日
Nutrition Support Team(以下,NSTと略)活動の算定加算要件に拠れば理学療法士の配置は必須ではなく,「配置されていることが望ましい」とされています.リハビリテーション栄養(以下,リハ栄養と略)の重要性に関する報告は,枚挙に暇がありませんが,理学療法士としてどのようにNSTに参加すればよいのか,モヤモヤを抱えていた折に国内研修の報に触れ,今回研修に参加させていただくことになりました.研修では一般病床とICUのNSTカンファレンス・ラウンドに参加したり,リハビリテーションの実際を見せていただいたり,吉田稔Dr,最上谷琢磨PT,柴田みちRD,森みさ子Ns,川畑亜加里Nsによる講義や現場で働いているスタッフとも討議する機会をいただき,当院でのNST,リハ栄養に関しての考え方や働き方の違いを体験し,考えることができました.以下に聖マリアンナ医科大学横浜市西部病院(以下,西部病院と略)におけるNSTの実際とリハ栄養の実践について筆者が体験した内容に若干の考察を加えて報告いたします.
NSTカンファレンスでは管理栄養士が司会をしながら医師,薬剤師,理学療法士,看護師と討議をしていくことは特に当院との差異は感じませんでしたが,理学療法士としては「なんのための栄養なのか」リハ栄養の考え方をNSTに反映させて機能予後の面から情報提供していることがわかりました.当院のリハビリテーションスタッフの間ではリハ栄養の重要性は認識しているものの,NSTメンバーに伝えるべき情報とリハ栄養の指標の共通認識を共有することが課題であると考えました.西部病院においては理学療法士と栄養士の距離感が近く,理学療法士が評価として下腿周径を測ったり,Inbodyで骨格筋指数を測って記録する習慣が根付いていました.Global Leadership Initiative on Malnutrition(以下,GLIMと略)基準では体重と筋肉量が診断のポイントになっており,この知識が若手からベテランまで共有されていることが,リハ栄養実践のための土台になっていると感じました.
特に,リハビリ場面の見学中に,現場で働いている1年目の理学療法士に先輩療法士が「この患者さんの必要蛋白質量は?」と問いかけると簡易に計算して自分なりの考えを表明でき,若手スタッフにもリハ栄養の考えが浸透していることに驚きました.理学療法士の教育機関に体系的な栄養療法がカリキュラムに組み込まれて日は浅く,当院においては若手~ベテランスタッフ間でリハ栄養の理解度や興味関心の度合いにバラツキがあります.その溝を埋めていく風土つくりが今後の課題であると感じました.リハスタッフにとって必要栄養量や現在の栄養の状態を理解することは,他職種と共通言語で意思疎通できることに繋がり,職種間連携のハードルを下げることがわかりました.その上で,理学療法士が得意とする機能評価と組み合わさることで,病院としてリハ栄養に取り組む風土が形成されていくものと思われました.
これらの体験を経て理学療法士がNSTにどのように参加するのか?という私が最初に考えていたモヤモヤは,理学療法士が得意とする機能評価と予後予測に関連した情報提供を行うことと,NSTに参画する前に,リハカルテの中に栄養評価をテンプレートで組み込んだり,隙間時間でスタッフ同士が情報のやり取りをすることで,NST以外の場面でも多職種で連絡しあうという風土を醸成していくことが解決のカギであると理解しました.
講義の中では今まで西部病院において培われてきたNSTのチームビルディングの実際や工夫点も含めてお話いただくことができました.今回の研修では多治見病院の樋上Nsと一緒に5日間同じ研修を受けしましたが,最後の成果発表の際に違う病院の違う職種の目線での発表や課題も考えることができ,より多面的に研修内容を振り返り,理解が進んだように思いました.
研修全体を通して,様々なものを見たり,経験することができました.患者さんのGLIMを評価したり,International Classification of Functioning, Disability and Healthに落とし込んだリハ栄養ケアプロセスを考えたり,理学療法士のカルテ記録に摂取栄養量や筋力測定に基づくリハの目標運動量が書いてあるのを見せていただいたり,救急外来の採血セットの中にビタミンの評価キットが組み込まれているものを見せていただきました.これらは当院ではまだできていない課題ですが,西部病院の集中治療場面でRefeeding症候群が多いことをデータ収集し,問題点としてスタッフ間で共有できて導入に至ったという経緯を教えていただきました.今後は研修で得た経験をSmall stepからSMARTなゴール設定に向けて当院でも取り組んでいきたいと考えています.まずは下腿周径を測定し,栄養の過不足を気に掛けるようにスタッフ間で声を掛け合うことと,機能予後の観点からNSTで栄養の過不足について情報提供をしていこうと思います.
最後に,お忙しい中研修を引き受けてくださった聖マリアンナ医科大学横浜市西部病院のスタッフの方々,懇切丁寧に質問に答えていただき,経験と知識のお土産をたくさんいただきました.本当にありがとうございました.また,このような素晴らしい国内研修の機会を与えてくださったJSPENの皆様に謝辞を申し上げます.この新しい取り組みが生み出す成果を,病院を超えて学会に発信してお返しできれば,と考えています.
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