地方独立行政法人北海道立総合研究機構水産研究本部中央水産試験場では,1988年より栄養塩類のモニタリングを実施している.モニタリングにより,近年の北海道日本海では,溶存態無機窒素がホソメコンブの生育を制限し,磯焼けの一要因として考えられている貧栄養の状態が継続している可能性が示唆された.一方で,20世紀初頭以前の北海道日本海沿岸では,大規模な海藻藻場が形成され,大量のニシンが漁獲されていた.このような観測データの存在しない年代の栄養塩環境を復元するために,博物館等に保存されているコンブ標本の窒素安定同位体比を分析した.その結果,2000年代以降に採取された標本では3~6‰前後を示したのに対し,1880~1920年頃(100~130年前)では10‰前後と高い値を示した.この差は,標本の変質や分解,人為起源窒素の利用,脱窒のみでは説明されず,当時大量に産卵来遊したニシンが北海道日本海沿岸域への栄養輸送に関与していた可能性を示唆する.