東京電力㈱福島第一原子力発電所の事故に伴い放出された放射性セシウムが福島県沖の魚類に取り込まれた機構について,水産庁公表データと水産研究・教育機構の調査結果に基づき分析を行った.コウナゴ等の小型浮魚の放射性セシウム濃度は事故直後に高濃度が検出されたが,海水濃度の低下と共に速やかに低下した.高次捕食魚のマグロ・カツオ類の放射性セシウム濃度は,事故直後に数十Bq kg-1 wet weight(w.w.)の水準にまで上昇した.しかし,その後は速やかに低下して2014年以降は事故前と同等である1Bq kg-1 w.w. 以下の水準で推移している.福島第一原発の事故後,マグロ・カツオ類から国が定める食品に含まれる放射性セシウム濃度の基準値(100Bq kg-1 w.w.)を上回った検体は報告されていない.底魚の放射性セシウム濃度は緩やかな低下傾向にある.最近の研究では海底土に含まれる放射性セシウムは海産生物に移行しにくいことが示唆されており,今後,福島県沖の底魚が海底土に含まれる放射性セシウムを取り込み続けることで,濃度が基準値を上回る水準にまで達する可能性は低いと考えられる.