沿岸海洋研究
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干潟域における一次生産と無機化過程;高松市新川河口干潟域の調査研究から
一見 和彦東薗 圭吾山口 聖山口 一岩多田 邦尚
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キーワード: 干潟, 一次生産, 底生生物, 分解
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2018 年 55 巻 2 号 p. 79-86

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抄録

瀬戸内海備讃瀬戸に位置する新川河口干潟域において,長年にわたる調査研究からその一次生産性と無機化について再検証を行った.干潟の水柱および表層堆積物では,珪藻類が主体となって夏季に最大となる一次生産性を示した.干潟の堆積物表層で高い一次生産速度が得られることはすでに知られているが,水柱の一次生産速度も,単位面積当たりの値としては沿岸海域で観測されるものと類似したが,単位容積当たりのそれは高水温期を中心に明らかに高かった(最大値418μgC L-1h-1).有機物が堆積した干潟の底泥において,栄養塩類の溶出速度は温度に依存し,その速度は夏季に高かった(例えば,14mmol-NH4m-2d-1).同様に二枚貝によるNH4の排泄速度も高水温期に高くなり,これら底生生物の現存量が多かった1994年/1995年夏季の排泄速度は,堆積物からの溶出速度を超える27mmol-NH4m-2d-1と見積もられた.したがって,干潟における無機化速度の高低は底泥中のバクテリアによる分解のみならず,底生生物の代謝活性とその生物量に大きく左右されることが示された.また窒素・リンについて,河川-干潟-沖合域間の年間収支を検証した結果,両者とも,河川から干潟への流入時には懸濁粒子としての形態割合が高く,干潟から沖合域へ流出する際には溶存態無機物質の割合が明瞭に増加していた.以上の観測結果は,干潟は大きな一次生産性を有しながらも,基本的には「無機化の場」として機能していることを示すものである.

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© 2018 日本海洋学会 沿岸海洋研究会
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