沿岸海洋研究
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アマモ場海域に見られる多様な微細藻類群集の時空間分布と生物生産構造における意義
辻 泰世門谷 茂
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2018 年 55 巻 2 号 p. 91-95

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抄録

本研究では,水深が浅くアマモが繁茂する汽水域における水柱,堆積物表層,アマモ葉上の微細藻類バイオマスの時空間変動を同時評価することを目的とし,北海道東部の汽水湖:風蓮湖において観測調査を行った.まず,水柱の植物プランクトン(PPL)と,海底から再懸濁した底生微細藻類(BMA)・アマモ葉上付着藻類(EMA)(両者を併せて,懸濁態底生系微細藻類(SMPB)と総称)の空間分布を調査した.風蓮湖では表層塩分5-20の水域でPPL が優占した一方,SMPB 細胞数は表層塩分の上昇とともに減少した.SMPB 細胞数は表層水から底層水にかけて有意に増加し,PPL とSMPB が異なる空間分布特性を持つ可能性が示された.全塩分域を通して,堆積物表層(0-5mm)の微細藻類バイオマスは水柱の微細藻類バイオマス(32-200mg C m-2)の6.6-143倍高く,アマモ葉上の微細藻類バイオマスはアマモが高密度に繁茂する表層塩分25-35の水域で水柱の微細藻類バイオマスを7.9-20倍上回った. 水柱,堆積物表層,アマモ葉上の微細藻類による基礎生産を見積もり,合計すると全塩分域を通して約5,000mg C m-2d-1と算出され,風蓮湖の高い漁業生産を支えていると考察された.全塩分域を通してBMA が基礎生産を高め,生物生産を広く支える役割をもつ一方,PPL とEMA はそれぞれ低塩分域と高塩分域で高い生産性を示すことが推察された.本研究を通して,汽水域では多様な微細藻類が異なる空間分布特性を持ち,それぞれが特有の役割を以て生物生産を支えている可能性が示された.

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© 2018 日本海洋学会 沿岸海洋研究会
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