2024 年 23 巻 1 号 p. 57-73
中学生を対象とした日本語版創造性パーソナリティ尺度作成の試み
─日中比較を目的とした中国語版尺度に基づく開発─
佐藤 重人(遼寧師範大学)
劉 文1(遼寧師範大学)
車 翰博2(遼寧師範大学)
1. 問題と目的
1.1 関係性のなかで育まれる創造性
近年,日本の中学校における学校教育において創造性の育成を重要視する取り組みが徐々にみられるようになってきている(例えば,香川大学教育学部付属高松中学校, 2020)。同時に,学校教育における創造性の発達に関する学術的な研究も増えてきている。その中には,学校の場において,教員や友人など周囲との対人的な関係性の中で,創造性が育まれるという見解も多くみられる(例えば,小野沢,2019;西浦,2011)。具体的には,「ほめる-ほめられる」という関係性が創造性を育成することに寄与していることなどが明らかにされている(弓野・山崎,2011)。このように周囲との関係性が創造性の発達に寄与することが知られている。ただし,これまでの研究では,理論的な洞察や,観察に基づく考察,質的な分析などが多く,量的な研究においても創造性を測定する指標が恣意的であるため,現場における創造性教育の取り組みの効果を実証的に検証しにくい課題がある。学校現場で育成される創造性を測定する指標が作成されれば,創造性の育成のための様々な取り組みの効果を検証し,その実証性を元に,取り組みの普及が期待されるだろう。また,創造性の育成に及ぼす対人的な関係性の重要性もまた,実証的に検証可能となるだろう。
1.2日本の創造性教育における問題点
心理学における創造性の研究はGuilford(1950)に端を発する。創造性の定義として,高橋(2002,p18)は,「人が問題を異質な情報群を組み合わせ統合して解決し,社会あるいは個人レベルで,新しい価値を生むこと」と定義している。
日本の創造性に関する教育は,1965年頃から活発に理論ならびに実践研究が行われるようになった(恩田,1994,p54)。1979年には日本創造学会が創立され,現在においても,文部科学省では,「初等中等教育における創造性の涵養と知的財産の意義の理解に向けて」をテーマに会議が行われるなど,その重要性に注目が集まっている(文部科学省,2017,2018)。
しかし,Adobe社(2017)の調査によると,12歳から18歳までの日本の若者は,自分たちを創造的とは捉えておらず,自らを創造的と回答した生徒はわずか8%であり,国際的な同世代の平均44%に比べて著しく低い結果となった。同様に,生徒を創造的であると回答した日本の教師は2%に留まり,国際平均の27%を大きく下回る結果となった。
日本において,創造性を高めるための教育のあり方は試行錯誤されてきており,例えば,いわゆる「ゆとり教育」という形が象徴的に示すように「詰め込み式教育」を改め,学校週5日制や総合的な学習の時間を設けた歴史がある。しかし,改善には至らず,かつ創造性の低さは依然として問題となっており,創造性が低いことで,経済における国際的な競争力などを低下させる懸念がある。
よって,日本における今後の創造性に関する教育の在り方を探るために,現在の日本の学生の創造性と他国の学生の創造性を比較し,文化や教育体制の違いが,創造性に及ぼす影響についての概観をする必要性があると考えた。
1.3中国における創造性教育
創造性に対して熱心であり,日本と異なる教育体制を持つ国の1つとして中国が挙げられる。中国において創造性が発揮された歴史は古く,紙・印刷術・火薬・羅針盤の中国四大発明は,世界に対して大きなインパクトを与えた。そして近年においては,中国初の有人宇宙船「神舟5号」が2003年に打ち上げられ,無事に帰還した。この成功は,ロシア,米国に次ぐ偉業であり,中国の科学技術力を世界に披露したといえる(包・尾崎,2004)。
また,日中は創造性についての学術的研究において,密接な関わりがありその捉え方も近い。中国の創造性に関する教育は1980代初頭から始まった。そして,ちょうどその頃から,中国における創造性に関する教育の研究者と日本創造学会との盛んな交流も行われていた(包・尾崎,2005)。そして,1994年には上海に政府認可の中国創造学会が設立された。全国に省レベルの9つの学会を有し,いずれも日本創造学会がそれらの設立のバックアップを行った。2002年には,上海で中日合作の国際創造学シンポジウムが開催された(高橋,2002,p236)。
従って,両国政府における創造性に対する捉え方も類似点が多い。2006年の全国人民大会≪中華人民共和国義務教育法≫の修訂においては,創造的思考能力,主体的・実践的な創造的問題解決能力の育成が強調されている(烏蘭,2010)。文部科学省(2015)では「新たな価値の創造の課題」と銘打ち,主体性・協働性・問題解決の3つを挙げていることから,日中両国は,創造性に対する教育理念に,主体性や問題解決を含む点が共通していると考えられる。
現在も中国における創造性の教育は熱心に行われている。徐(2005,p44)は,中国における創造性に関する教育の特徴について述べているが,それらは3つの点にまとめられる。
第一に,単一の教科から全教科への展開である。現在の創造性に関する教育は組織的に展開しているため,1教科,1クラスではなく,全教科全校に関連し,広範囲に成果があらわれている。第二には,教員個人の実践から全国範囲への拡大である。校長自ら先頭に立ってリーダーシップを発揮し,研究チームを結成して,研究助成金を申請するなど,積極的にアピールをしている。第三は,試行錯誤の段階から理論先行への昇華である。現在の創造性の教育に関する理論研究は,試行錯誤を繰り返し,多くの創造性に関する書籍を各学校が出版するほど,創造性の教育に注力されている。
以上のように,中国は創造性に関する教育が熱心に行われている。また,日本の創造性研究は中国の創造性の教育に対して,大きな影響を与え,発展にも大きく貢献してきたことから創造性における捉え方も近い。よって,創造性に対して熱心であり,教育体制が日本と異なり,また創造性に関する教育理念が類似していることから,中国と比較することは望ましいと考える。
1.4創造性パーソナリティと創造的態度
恩田(1994,p115)は,創造的人格3 は育成可能な人格であるとしている。そのため,青年初期である中学生という発達段階のパーソナリティを調査し,創造性パーソナリティの内部構造を明らかにすることは,より多くの創造性が高い人材を育て,社会における様々な問題に対して,解決するアプローチができる人材育成に寄与できると考える。Eysenck (1997)は,創造性パーソナリティは創造的行動をする人と定義しており,創造的行動とは,斬新な,独創的な,びっくりするような,一通りではない,独自的で特徴ある成果を出す行動と述べている。また,創造性パーソナリティを創造性に関する人格(creativity-relevant personality,Martinsen,2011)と簡単に解釈する研究者もいる。
日本における創造性の測定には,S-A創造性テスト(創造性心理研究会編,1969)やMSC創造的構えテスト(伊賀,1998)などが用いられてきた。しかし,創造性におけるパーソナリティの研究は,上位概念の創造性パーソナリティよりも下位概念の創造的態度に注目した研究がいくつか報告されている。創造性の分野において抜粋したものをFigure 1に示す。
創造的態度の定義としてSchank and Childers(1988)によれば,マニュアル的な方法や決まったやり方の問題解決ではなく,自分から問題に対して好奇心を持ち,恐れず常に改良し,失敗からも新しいものを産み出す態度のことであると述べている。
豊島・庭瀬(2000)は,中学生の創造的態度についての研究で,生徒が過去に体験した自然の事物や現象を五感で触れ合う「体験」の中で,特に「感動もしくは熱心に行った体験」は創造的態度の「自主・独自性」,「努力・持続性」の両方に相関があると述べている。
宮瀬(1997)は,中学生の創造性と不安の関係に関する一考察の中で,中学生350人に対して中学生創造的態度の尺度開発を試みた。結果は,独立性,探求性,非同調性,曖昧性,誇示性,執着性,柔軟性の7因子が確認され,信頼性と妥当性が証明されたとしている。
これらは創造的態度の研究であり,上位概念である創造性パーソナリティに対して行った研究はなく,また,日本には創造性パーソナリティにおける尺度が開発されていない。更に研究者によっては,創造性におけるパーソナリティ,態度,性格を同義語として考えている。しかし,創造性パーソナリティは,その人の性格そのものと態度の2つが主要なものである(高橋,2002,p22)。
そのため,中学生に対して創造的態度の尺度開発を行ったとしても上位概念である創造性パーソナリティの内部構造に関する研究が不十分なため,下位概念である創造的態度における尺度開発についても不十分だと考える。創造的態度だけでなく,上位概念である創造性パーソナリティに焦点化し,内部構造を明らかにする尺度開発が求められる。
本研究は,中国の尺度を日本語版に改定(翻訳)する方が望ましいと考えた。なぜなら,日本人を対象に作成された尺度を翻訳し,中国語版を作成しても,その内部構造は日本のものであるため,日本人に不足している創造性の構成要素を発見するには至らない。しかし,中国人を対象に作成された尺度を邦訳し調査を実施すれば,中国との異同を明らかにすることができる。そのため,曾・鄒(2015)によって作成された中・高校生用創造性パーソナリティ尺度の邦訳版を作成し,その信頼性と妥当性を確認することを目的とする。原版の中国語を日本語に翻訳し,項目の修正を行ったものを日本語版中学生用創造性パーソナリティ尺度として,その信頼性と妥当性を検証した。中国で作成された創造性の尺度を邦訳し,日中比較を行うことは,今後の日本の創造性に関する教育の方向性を探る上で意義があると考える。
2. 研究一
2.1目的
本研究は,曾・鄒(2015)によって作成された中・高校生用創造性パーソナリティ尺度の日本人中学生を対象とした邦訳版を作成すること,およびその信頼性・妥当性を検証することを目的として行われた。
2.2 方法
中国の創造性パーソナリティ尺度を使用したバックトランスレーション
中・高校生用創造性パーソナリティ:曾・鄒(2015)は学生の創造性の育成と発展を重視している中学校や高校の教師28名に対して,個別の対談を行った。教師には創造性に対する理解を説明させ,自分の教育経験を元に,創造性が高いと思われる学生の名前を列挙してもらった。
次に創造性が高いと思われる選ばれた学生に対してグループディスカッションを行ってもらい,自分の周りで最も創造性があると思われる学生を列挙してもらった。また,彼らが創造性を発揮した科目や活動に対しても話し合ってもらい,紙に書くように求めた。
最後に,教師と学生から選ばれた創造性が高いと思われる学生16名に対して,個別の対談を行った。学生には自分の性格の特徴,行動スタイル,趣味,日常的な行動などを紹介してもらい,創造性に対する自分の理解と自己評価も述べてもらった。
そして,対談で得られた内容に対して定性分析を行い,項目のチェックや修正をした。曾・鄒(2015)は,中・高校生の創造性パーソナリティには,柔軟,深い考え,独立,想像,集中,孤絶,気力,勇敢,自己肯定,変化を求める,外向的,洞察,感情が豊かの13の特性があるとし,また,創造性の定義についても教師と学生の理解は一致していると述べている。
次に,信頼性を検証するために予備調査を行った。北京市にあるG中・高学校345名の学生が参加した。その後,本調査を行うために北京市内のS,R,Tの3つの学校から中学1,2年生と高校1,2年生が参加した。合計1593名の学生に対して本調査を行った。71項目に対して因子分析を行い8つの因子が抽出されたとしている。中・高校生の創造性パーソナリティ尺度の全体の信頼性係数はa=.90であり,各下位尺度の信頼性係数は,霊活敏鋭(柔軟で敏感)4はa=.87,富于想象(想像が豊か)はa=.77,明悟善感(理解と感情)はa=.77,安于独処(独りが好き)はa=.68,好奇求是(興味を追求)はa=.77,楽于探索(探索が好き)はa=.62,自由求異(自由な形式)はa=.78,勇于挑戦(勇敢な挑戦)はa=.77であった。また,499名の学生に対して確証的因子分析を行った結果,適合度指数は十分な値を示したとしている(RMSEA=.055,CFI=.97, NFI=.94,NNFI=.96)。
そして再検査信頼性では,233名の学生に対して3カ月後に再び調査を実施し,全体の相関係数はr=.85であった。また,いずれの下位尺度も1回目と2回目の間でr=.62~.77の値を示した。妥当性はLin & Wang(1994)が作成したWilliams Creative Scaleの中国語版と程(2012)が作成した中・高校生日常創造力尺度を用いて,内容的妥当性,基準関連妥当性,識別的妥当性が検証されている。その結果,高い相関関係を示し妥当性が証明されたとしている。
バックトランスレーション5 原著者の許可を得た上で,曾・鄒(2015)が作成した全42項目からなる中・高校生用の創造性パーソナリティ尺度を原文にできるだけ忠実な日本語版を作成するためにバックトランスレーションを行った。日本語に対する確認は,著者を含む心理学を専門とする日本人大学教員と心理学を専門としない日本人大学教員の計3名で行った。中国語に対する確認は,中国の大学に通う心理学専攻の大学院生,日本の大学で働く中国人大学教員,および日本語を専門とする中国人の大学院生計7名で行った。よって,日本人と中国人合わせて計10名でバックトランスレーションを行った。まず,中・高校生用の創造性パーソナリティ尺度の原版を日本人1名と中国人2名で日本語に翻訳した。その後,心理学を専門とする日本人大学教員が確認し日本語版ver.1を作成した。次に,中国人大学教員と日本語を専門とする大学院生が原版を見ずに日本語版ver.1を中国語に翻訳した。中国語に翻訳したものと中・高校生用の創造性パーソナリティ尺度の原版を中国人大学教員や心理学専攻の中国人学生が比較し,意味が異なる項目を指摘した。それらを日本人2名が修正し,日本語版ver.2を作成した。
最後に,今回は中国語を日本語に翻訳しているため,漢字はできるだけ中国語の漢字を残しつつ日本語に翻訳した。しかし,中国語の漢字だと日本の中学生には難しすぎるため,日本人の中学校教員にも確認してもらった。そして,再度意味を変えず中学3年間で学習する常用漢字に則り修正し,また負担を少なくするためにルビを振ることにした。
日本語版中学生用創造性パーソナリティ尺度試案は,上述のようなバックトランスレーション手続きにより,オリジナル尺度の項目を忠実に邦訳したうえで作成されたため,中国語と日本語の等価性は確認されていたと言える。
調査協力者 2018年6月下旬から2021年1月下旬の期間に,千葉県内の公立中学校AおよびBの2校に対して調査を実施した。A中学校は,全学年合計275名を対象に調査を実施した。内訳は1年生102名,2年生81名,3年生92名であった。B中学校は,全学年合計479名を対象に調査を実施した。内訳は1年生148名,2年生152名,3年生179名であった。回答に不備のあったものを除き,両校における合計の有効回答者は678名であった。
尺度
日本語版中学生用創造性パーソナリティ:日本語版中学生用創造性パーソナリティ尺度の回答は,原版と同じく“5.当てはまる”“4.やや当てはまる”“3.どちらとも言えない”“2.あまり当てはまらない”“1.全く当てはまらない”の 42項目5 件法とした。得点範囲は42点から210点である。教示文には,「このアンケートは中学生の思考・個性や日常的な行動の特徴を調べるものです。」とした。また,回答例も示した。
創造的態度:福井他(2019)は,繁枡他(1993)による創造的態度を測定する尺度の因子負荷量が.40未満の項目をカットし,同一内容の項目は結合などを行い作成した。下位尺度は,柔軟性,分析性,進取性,持続性,想像性,協調性の6因子である。今回は,霊活敏鋭(柔軟で敏感)の項目内容である「私はいつも他の人より,深く意味のある考えが出せる」などから,柔軟性の項目である「人が思いつかないようなことを考え出すと,よく言われる」などを,他人と違った考え方を持つが共通していると判断し,用いることとした。富于想象(想像が豊か)の項目内容である「私は想像や空想に溺れ,あらゆる可能性を探求し,さらに自由に発展させるのが好きだ。」などから,想像性の項目である「空想したり,現実と異なることを考えることが多い」などを,よく空想するが共通していると判断し,用いることとした。安于独処(独りが好き)に関しては,「私は他人に邪魔されないで一人で仕事をするのが好きだ」などの項目内容から,一人で作業するのが好きと考える。そのため,創造的態度の協調性の項目内容である「誰かと協力して作業することが多い」などと負の相関を示すことから,この因子に限っては,弁別的妥当性を判断することとした。楽于探索(探索が好き)の項目内容である「私は将来,研究職に就きたい」などから,分析性の項目である「細かく観察することが好きだ」などを,研究や分析が好きであるが共通していると判断し,用いることとした。自由求異(自由な形式)の項目内容である「私は新しいやり方が好きで,古いやり方を繰り返すのは好きではない」などから,進取性の項目である「新しいものや,珍しいものが好きだ」などを,新しいやり方やものが好きが共通していると判断し,用いることとした。勇于挑戦(勇敢な挑戦)の項目内容である「私は,やると決断したら,いくら苦労しても最後までやり遂げる」などから,持続性の項目である「ものごとを途中でやめたり,中途半端に行うのは嫌いだ」などを,途中でやめず,最後までやるが共通していると判断し,用いることとした。
感動体験:横山他(2011)によって,中学生の感動体験の実態を把握するために作成された。感動体験は全40項目からなり6つの下位尺度は,友達,スポーツ,自然,成功,家族,芸術である。今回は,明悟善感(理解と感情)の項目内容である「私は感情表現が豊かで,想像しやすい詩や文章を読むのが好きだ」などから,自然と芸術の項目である「本を読んで,元気が出たり,楽しいと思ったり,新しい知識が身についたり,涙が出たりした」などを,感情が豊かであるが共通していると判断し,用いることとした。
知的好奇心:西川・雨宮(2015)によって知的好奇心の2タイプである拡散的好奇心と特殊的好奇心を測定するために作成された。今回は,好奇求是(興味を追求)の項目内容である「私は興味があるものに出会うと,様々な所から関連する情報を集める」などから,知的好奇心尺度の項目である「物事を学ぶ時には,徹底的に調べたい」などを,興味があることを調べるが共通していると判断し,用いることとした。
2.3倫理的配慮
本研究のアンケートは,AおよびB中学校の元校長に調査を依頼し,現校長に対し,研究のみに使用すること,発表に関して営利を目的とする企業等から報酬を受けていないことを説明して,承諾を得て実施した。承諾を得た後も教員の助言の元,アンケート調査への参加によって対象者に不利益がないよう,実施日などは試験や学校行事がない時期に行い,調査時間などの心理的負担も考慮して調査を行った。アンケートのフェイスシートには教示文を記載して,学業成績には一切関係がないこと,調査に参加するかは個人の自由であり,途中で調査をやめても構わないことを説明した。調査は匿名で行い,個人情報が特定できるような形では結果を公表しないこと,データはコンピュータで処理され,調査用紙を厳重に管理することを説明した。以上のことを協力者を介して口頭でも説明してもらい同意を得た。
2.4 結果
日本語版中学生用創造性パーソナリティ尺度の項目を,主因子法,プロマックス回転を用いて因子分析を行った。また,各項目の負荷量は特定の因子で.35以上,かつその他の因子で.35未満となることを基準とし,計6個の因子が抽出された。その結果をTable 1に示す。
第1因子は「私は興味を持ったことに対して,トコトン追求するのが好きだ。」,「私は自分の好きなものの中に,新しい発見や美しさを見つけ,楽しむことができる。」,「私は興味があるものに出会うと,様々な所から関連する情報を集める。」などの項目内容から,自分にとって興味があることを研究すると解釈し,『感興的研究』と名付けた。
第2因子は「勉強中,私はいつも一つの事から多くのことを理解・学習することができる。」,「私はいつも他の人より,深く意味のある考えが出せる。」,「私の頭は柔軟で,物事に対する理解が速い。」などの項目内容から,柔軟で新しい提案が出せると解釈し,『柔軟的着想』と名付けた。
第3因子は「私は,やると決断したら,いくら苦労しても最後までやり遂げる。」,「私は他の人が諦めてしまうような,困難に出会っても,継続することができる。」などの項目内容から,最後まで諦めずに継続すると解釈し,『継続的挑戦』と名付けた。
第4因子は「私はよく現実に存在しない物事を想像して楽しんでいる。」,「私は想像や空想に溺れ,あらゆる可能性を探求し,さらに自由に発展させるのが好きだ。」などの項目内容から,想像や空想が自由にできると解釈し,『発展的想像』と名付けた。
第5因子は「私は将来,研究職に就きたい。」,「私はある物を分解し,中に何があるかを深く調べたいと思う時がある。」などの項目内容から,独創的な考えがはっきりあると解釈し,『独創的探求』と名付けた。
第6因子は「私はすぐに芸術作品や文学作品の中の感情を理解することができる。」,「私はいつも自然や芸術の美しさに心を奪われる。」などの項目内容から,芸術や自然への感情を理解できると解釈し,『芸術的理解』と名付けた。
全体の信頼性係数は,a=.92であった。各下位尺度の信頼性係数は,『感興的研究』は,a=.84,『柔軟的着想』は,a=.85,『継続的挑戦』は,a=.80,『発展的想像』は,a=.78,『独創的探求』は,a=.66,『芸術的理解』は,a=.70で,『独創的探求』は若干数値が低かったものの,内部一貫性があると判断した。
続いて,作成した日本語版中学生用創造性パーソナリティ尺度の因子構造に従い,確証的因子分析を行った。その結果をFigure 2に示す。
適合度指標は,χ2 (194) = 706.582, (p< .001), GFI=.909, AGFI=.882, CFI=.922, RMSEA=.062, AIC=824.582であったため,許容できる値と判断した。
また,原版の中・高校生用創造性パーソナリティ尺度である42の因子構造に従い,確証的因子分析を行った結果は,χ2 (791) = 2868.704, (p< .001), GFI=.818, AGFI=.792, CFI=.845, RMSEA=.062, AIC=3092.704であった。そのため,6因子22項目の日本語版中学生用創造性パーソナリティ尺度は,因子構造の観点からも安定性が確認され,因子的妥当性を有するといえる。
因子分析の結果,得られた6つの因子それぞれの項目の平均値と標準偏差,および妥当性を検証するために用いた既在の尺度の平均値と標準偏差をTable 2に示す。
調査1で得られたデータについて,研究1で作成した日本語版中学生用創造性パーソナリティ尺度の因子構造に従い,下位尺度得点をもとめた。この下位尺度得点は,各因子を構成する項目の合計を項目数で割っている。得られた平均値と標準偏差からは,天上効果も床効果もみられなかった。
日本語版中学生用創造性パーソナリティ尺度の収束的妥当性を検証するために,各下位尺度と既存の尺度との相関分析を行った(Table 2)。
その結果は,第1因子から順に『感興的研究』は,『知的好奇心』と正の中程度の相関(r=.59,p<.001)がみられた。『柔軟的着想』は,『創造的態度(柔軟性)』と正の中程度の相関(r=.69,p<.001)がみられた。『継続的挑戦』は,『創造的態度(持続性)』と正の中程度の相関(r=.59,p<.001)がみられた。『発展的想像』は,『創造的態度(想像性)』と正の中程度の相関(r=.57,p<.001)がみられた。『独創的探求』は,『創造的態度(分析性)』と正の中程度の相関(r=.55,p<.001)がみられた。『芸術的理解』は,『感動体験』と正の中程度の相関(r=.54,p<.001)がみられた。
日本語版中学生用創造性パーソナリティ尺度では想定していた因子,安于独処(独りが好き)と自由求異(自由な形式)がすべて除外された。そのほかは,概ね想定していた通りになった(Table 1)。
2.5 考察
本研究は,日本語版中学生用創造性パーソナリティ尺度を作成することを目的とした。その結果,最終的に22項目で,6個の下位尺度を有し,信頼性と妥当性が確認された。原版の中・高校生用創造性パーソナリティ尺度の下位尺度とは異なり6つの下位尺度となった。因子分析では想定していた因子の安于独処(独りが好き)と自由求異(自由な形式)がすべて除外される結果となった(Table 1)。また,確証的因子分析の結果,本尺度の因子的妥当性も確認された。
以上の結果により,原版とはやや相違はあるが日本語版中学生用創造性パーソナリティ尺度が完成した。しかし,本尺度は一部の因子を除き,収束的妥当性のみを検証するにとどまったが,妥当性をより頑健なものとするためには,すべての因子に対して,弁別的妥当性の検討も必要となるだろう。
3. 研究二
3.1目的
本研究は,日本語版中学生用創造性パーソナリティ尺度の再検査信頼性を検証することを目的とした。
3.2方法
調査協力者 2021年2月下旬に,千葉県内の公立1校,A中学校の全学年,合計279名を対象に調査を実施した。回答に不備のあった4名を除いた有効回答者は275名であり,内訳は1年生107名,2年生86名,3年生86名,性別は男性128名,女性151名であった。また,研究2の調査協力者は,研究1と同一人物である。研究1の時に記入してもらった独自に設定した識別記号を元に,研究1と研究2を結び付けて対応した。
尺度 研究1で作成された日本語版中学生用創造性パーソナリティ尺度を用意した。
3.3倫理的配慮
研究1と同様の倫理的配慮を行った。
3.4 結果
調査2で得られたデータについて,研究1で作成した日本語版中学生用創造性パーソナリティ尺度の下位尺度得点をもとめた。この下位尺度得点は,各因子を構成する項目の合計を項目数で割っている。各下位尺度得点の平均値と標準偏差をTable 3に示す。
得られた平均値と標準偏差からは,天上効果も床効果もみられなかった。
再検査信頼性を検証するために,1回目の調査と2回目の調査における日本語版中学生用創造性パーソナリティ尺度の下位尺度間の相関分析を行った(Table 4)。その結果は,第1因子から順に『感興的研究』は中程度の相関(r=.66,p<.001),『柔軟的着想』は強程度の相関(r=.70,p<.001),『継続的挑戦』は強程度の相関(r=.72,p<.001),発展的想像は強程度の相関(r=.71,p<.001),独創的探求は中程度の相関(r=.64,p<.001),芸術的理解は中程度の相関(r=.68,p<.001)がみられた。
いずれの下位尺度も1回目と2回目の間でr=.64~.72の値を示したため,再検査信頼性を有するといえる。また,調査2における全体の信頼性係数は,a=.92であった。各下位尺度の信頼性係数は,いずれの因子も.61から.85であったため,『独創的探求』の下位尺度の内的整合性について,その安定性に課題が残る(Table 3)。
3.5考察
研究二では,日本語版中学生用創造性パーソナリティ尺度の再検査信頼性を検証することを目的とした。結果的に,すべての下位尺度において中程度以上の相関係数が得られたため,本尺度は一定の再検査信頼性を有するといえる。なお,a係数が研究一から通して.60台となった『独創的探求』について,その項目内容をみると,「研究職に就きたい」という特定の職業への志向性を感じさせる項目と,「他の人が考えないようなことをしたい」とする自由で独創性の高さを意味する項目があるため等質性が低くなったものと考えられる。この点については,翻訳の問題ともいえ,「何かを探求することを仕事にしたい」といった表現への改訂も将来的には検討すべきであろう。
4. 総合考察
本研究では,a係数に一部課題がみられるが,一定の信頼性と妥当性を有する日本語版中学生用創造性パーソナリティ尺度が作成された。しかし,探索的な因子分析において,原版の安于独処(独りが好き)と自由求異(自由な形式)は,全ての項目が除外された。従って,原版とは異なる因子数の日本語版尺度となった。
原版の安于独処(独りが好き)と自由求異(自由な形式)が抜け落ちた原因において,本研究は曾・鄒(2015)が作成した中・高校生用の創造性パーソナリティ尺度を使用したことから,中学生には存在しない高校生独自の因子であることが考えられる。
日本の教育制度では,中学生は義務教育であり,自由は重んじられず集団への適応が求められることや,自我の発達的な観点からも自己の確立は不十分であることなどが根拠として仮定できる。よって,抜け落ちた因子については,日本語版高校生用創造性パーソナリティ尺度を作成することで明らかとなるだろう。
今後の展望としては,日本と中国間の創造性の違いを理解するため,共通する因子について関連が予測される諸変数とともに,比較する研究を行う必要もあるだろう。比較することは文化差を知ることで両国間のためになると考えられる。日本で働く中国人や中国で働く日本人の創造的な人材を育成し,両国間に存在する現時点で解決法の見当たらない社会的な問題や政治的問題の創造的な解決にも貢献できると考える。
また,本研究で作成された尺度を用いて,日本の中学校で試験的に実施されている創造性教育の取り組みの効果を実証的に検証することや,学校の場における周囲との対人的な関係性が創造性の育成に寄与するとの仮説の実証的な検証を行うことは,創造性教育の取り組みの普及や,対人関係と創造性の発達の理解を促進させる研究となるため意義があるだろう。
謝辞
本研究は,花香健司氏のご協力により作成することができました。また,翻訳を中心にご助言をしていただきました邢燕氏と龐楠氏と王珮珣氏,そして調査実施にご協力していただいた日本の先生方,ならびに参加された学生の皆様にこの場を借りて心より深く感謝申し上げます。
引用文献
Adobe (2017).Gen Z in the Classroom: Creating the Future 日本のZ世代に関する意識調査結果を発表
https://www.adobe.com/jp/news-room/news/201706/20170629-japan-gen-z.html
包鳥力吉倉・尾崎浩巳 (2004).中国の素質教育における創造性育成の動向に関する研究.日本科学教育学会年会論文集,28.
包鳥力吉倉・尾崎浩巳 (2005).中国の創造性教育に関する研究. 日本科学教育学会年会論文集, 29.
曾 栄・鄒 泓 (2015).中学生創造性人格的特征 作用及其影響因素. 北京師範大学博士学位論文(未公刊). 北京:北京師範大学.
程 玉潔 (2012).中学生日常創造性行為的特点及其与人格的関系. 北京師範大学修士学位論文. 北京:北京師範大学.
Eysenck, H. J. (1997). Creativity and personality. In M.A. Runco (Ed.), The creativity research handbook volume one (pp. 41-66). Cresskill: NJ: Hampton.
福井昌則・黒田昌克・森山 潤・平嶋 宗 (2019).高校生のプログラミングに対する意識と創造的態度との関連性. 教育情報研究, 34,19-28.
Guilford, J. P. (1950). Creativity. The American Psychologist, 5,444-454.
伊賀憲子 (1998).MSC創造的構えテストの作成 文化女子大学紀要 服装学・生活造形学研究 39-52
香川大学教育学部付属高松中学校(著). 磯田 文雄(序). (2020).未来を創造する学び コミュニケーション能力・創造的思考を育む 新領域 創造表現活動の可能性. 明治図書出版株式会社.
Lin, H. T.,&Wang, M. R. (1994).Williams creativity test. Psychological Publishing.
Martinsen, Ø. L. (2011).The creative personality: A synthesis and development of the creative person profile. Creativity Research Journal, 23,185-202.
宮瀬弘吉 (1997).中学生の創造性と不安の関係に関する一考察. 兵庫教育大学大学院 学校教育研究科学位論文. 兵庫:兵庫教育大学
文部科学省 (2015).初等中等教育における創造性の涵養と知的財産の意義の理解に向けて -知的財産に関わる資質・能力の育成- 平成27年11月30日 文部科学省初等中等教育局教育課程課 資料3-1
文部科学省 (2017).初等中等教育における創造性の涵養と知的財産の意義の理解に向けて -知的財産に関わる資質・能力の育成- 平成29年1月27日 文部科学省初等中等教育局教育課程課 資料4
文部科学省 (2018).初等中等教育における創造性の涵養と知的財産の意義の理解に向けて,第3回検証・評価・企画委員会(産業財産権分野会合)平成30年 2月5日(月)文部科学省 初等中等教育局教育課程課 資料 3-1
西川一二・雨宮俊彦 (2015).知的好奇心尺度の作成:拡散的好奇心と特殊的好奇心. 教育心理学研究, 63,412-425.
西浦和樹 (2011).創造性教育の現状と創造的問題解決力の育成 -教育ツールの活用による人間関係構築の試み-. 教育心理学年報, 50,199-207.
恩田 彰 (1994).創造性教育の展開. 恒星社厚生閣.
小野沢美明子(2019).豊かな人間関係の中で培われる幼児の創造性. 教育学論集, (71), 153-169.
大川一郎・渡辺弥生 (1990).ACLによる創造的パーソナリティ尺度の作成. Tsukuba Psychological Research 筑波大学心理学研究, 12,159-167.
Schank, R., & Childers, P. (1988).The creative atti-tude.New York: Macmillian Publising Company.
繁枡算男・横山明子・サムスターン・駒崎久明 (1993).日米学生の創造的態度の因子分析による比較研究. 心理学研究, 64,181-190.
創造性心理研究会編 (1969).S-A 創造性検査手引き O・A・B・C版共通 東京心理
高橋 誠 (編). (2002).創造力事典. 日科技連
豊島禎廣・庭瀬敬右 (2000).中学生の創造的態度についての研究:「原体験」と学力との関連を通して. 理科教育学研究, 41 (2), 1-8.
烏蘭其其格 (2010).中等教育における化学教科の課題を用いた創造性テストの開発と評価 北陸先端科学技術大学院大学知識科学研究科知識科学専攻修士論文
徐 方啓 (2005).中国の創造性教育の特徴 弓野憲一 (編) 世界の創造性教育 (pp.44-46) ナカニシヤ出版
横山理沙・久保田瑞・古田真司 (2011).中学生における感動体験と自己肯定感の関連についての検討:学校適応と家族機能の影響に着目して. 東海学校保健研究 Tokai J School Health, 35,17-24.
弓野憲一・山崎彩乃(2011).個性的能力と創造性に関する教師と大学生のほめ言葉比較. 日本創造学会論文誌= Journal of Japan Creativity Society/日本創造学会編, 14,69-86.
本研究は,遼寧師範大学劉文Professor/a Ph.D. advisorの研究室における創造性パーソナリティ研究プロジェクトの1つとして行われたものである(Corresponding author Wen LIU,E-mail: liuwen_7777@126.com)。
本研究においては,車翰博を共同第一著者(co-first author)とする。
創造性のパーソナリティにおいて,恩田(1994,p99)は「創造的人格」,大川・渡辺(1990)は「創造的パーソナリティー」など,研究者によって名称は異なるが,本研究における創造性パーソナリティと同義のため,以降は「創造性パーソナリティ」で統一する。
本来は中国語の簡体字であるが,本研究は日本の学術雑誌のため,すべてを日本で使用されている漢字に直した。また,( )内の日本語訳についても,正確な訳を書いた場合文章が長くなるため,意味を変えず簡略化した。
本研究の日本語版中学生用創造性パーソナリティ尺度においては,本論文のCorresponding authorである劉文教授から著作権者である北京師範大学鄒泓教授に連絡を取り,原版(中国語)から邦訳版作成の同意を得た。許可を得た年月日,2016年9月。