関係性の教育学
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療育施設入園前後における環境から受ける母親の育児意識の変容
質問紙を通した母親の育児環境から見えてくるもの
森近 森近
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キーワード: 通所療育園, 母親, 育児意識
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2024 年 23 巻 1 号 p. 75-86

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Abstract

A県の通所療育施設において,自由参加として子どもを施設に通わせる母親に広く,育児環境における意識調査が行われ,収集した無記名の調査結果を施設長から受け取り分析の依頼を受けた。本稿では,意識調査から障害児が療育園に入園することにより,障害児をもつ母親の育児に関する環境から受ける入園前後での状況の変化に伴う育児意識の変容を明らかにすることを目的とした。その結果,母親は療育園にわが子を入園させるまで,彷徨,辿り着いた経緯が明らかになった。また,母親は入園後の子育て支援を受けることにより,児童理解の困難性等を乗り越えて児童理解が進み,母親の育児意識の成長の変容が明らかとなった。

Translated Abstract

At a day-care center in prefecture A, an awareness survey of the child-rearing environment was widely conducted among mothers who send their children to the center as free participants, and the director of the center asked us to receive and analyze the results of the anonymous survey collected. The purpose of this paper was to clarify the changes in child-rearing attitudes of mothers with children with disabilities due to the changes in the environment related to child-rearing before and after their children's enrollment in a rehabilitation facility. As a result, it became clear that the mothers had wandered and arrived at the point of admission of their children to the kyoikuen. In addition, the mothers overcame difficulties in understanding their children and made progress in understanding their children by receiving child-rearing support after their children's enrollment, and the transformation in the growth of the mothers' child-rearing awareness was revealed.

療育施設入園前後における環境から受ける母親の育児意識の変容

― 質問紙を通した母親の育児環境から見えてくるもの ―

森近 利寿(元鳴門教育大学研究生)

Transformation of Mothers' Childrearing Attitudes Received from the Environment Before and After Admission to Rehabilitation Facilities - What can be seen from the mothers' child-rearing environment through the questionnaire –

Toshihisa MORICHIKA

抄 録

A県の通所療育施設において,自由参加として子どもを施設に通わせる母親に広く,育児環境における意識調査が行われ,収集した無記名の調査結果を施設長から受け取り分析の依頼を受けた。本稿では,意識調査から障害児が療育園に入園することにより,障害児をもつ母親の育児に関する環境から受ける入園前後での状況の変化に伴う育児意識の変容を明らかにすることを目的とした。その結果,母親は療育園にわが子を入園させるまで,彷徨,辿り着いた経緯が明らかになった。また,母親は入園後の子育て支援を受けることにより,児童理解の困難性等を乗り越えて児童理解が進み,母親の育児意識の成長の変容が明らかとなった。

キーワード:通所療育園,母親,育児意識

Abstract

At a day-care center in prefecture A, an awareness survey of the child-rearing environment was widely conducted among mothers who send their children to the center as free participants, and the director of the center asked us to receive and analyze the results of the anonymous survey collected. The purpose of this paper was to clarify the changes in child-rearing attitudes of mothers with children with disabilities due to the changes in the environment related to child-rearing before and after their children's enrollment in a rehabilitation facility. As a result, it became clear that the mothers had wandered and arrived at the point of admission of their children to the kyoikuen. In addition, the mothers overcame difficulties in understanding their children and made progress in understanding their children by receiving child-rearing support after their children's enrollment, and the transformation in the growth of the mothers' child-rearing awareness was revealed.

Key Words: day care centers, mothers, and parenting attitudes

Ⅰ.問題と目的

 厚生労働省(2015)は「健やか親子21(第2次)」において,「すべての子どもが健やかに育つ社会の実現」のための課題の一つとして,様々な要因により,育児上の困難感を感じる親に寄り添う支援をあげている。

育児の意識に関することや障害児の母親のストレス等の研究の変遷を辿ってみると,まず,育児不安について,飯田(2018)は産後1か月までに2週間健診や母乳外来,育児相談,電話相談等個別相談による成功体験の承認による言語的説得によって,単胎初産婦の育児に対する遂行行動の達成の見込みがつきやすくなり,育児に対する自己効力感が高まる可能性について示唆している。次に,坂野・中西(2018)は夫のサポートと妻のストレスや育児不安が関連していることを報告し,清水(2017,p120)は「子どもが成長すると共に,母親の子どもとの絆は高まり,疲労感は低下するが,その他の育児ストレスや蓄積的な疲労感が高まっていた」と述べている。障害児の母親のストレスについての先行研究として,田中(1996)は,障害児の母親は健常児をもつ家族に比べ,すべてのストレス項目で高い結果であったことを報告している。さらに,松田(2001)は育児不安度及び生活満足度には相関性があると述べている。

以上の母親の育児等に関する知見が示唆するように,療育園への母親の満足度は育児不安との相関性があり、母親がこれまで育児不安になった際の種類や要素及びアセスメント等の知見は存在すると考えられる。それらのもととなっている育児不安の定義として,牧野(1982,1983,1987,1988)は,「育児の中で感じられる負担感や疲労感などを伴う情緒の状態である」と定義し,加藤・石井・牧野・土谷(2002)は,育児不安の要因として,母親に課せられた育児の過重負担,その結果もたらされる社会的孤立感(孤独感・疎外感)をあげている。

この度,A県の通所障害児施設において母親の育児への意識調査が行われ,施設長から「母親の育児に関する意識」についての調査として集計分析の依頼を受けた。意識調査の協力者はA県の通所障害児施設に児童を通わせる母親であり,意識調査は自由参加で行われ,賛同協力できる協力者に回答してもらい任意に提出されたものである。この施設においての回答協力者はすべて母親であったため,育児において,母親との関係性はあると思われる。また,育児に関して健常児の母親にも,様々な苦悩がある。さらに,障害児の母親は,健常児をもつ以上に育児に過酷な条件が加わると思われる。

本稿では,施設の母親の意識調査から,障害児が療育園に入園することにより,障害児をもつ母親の育児に関する環境から受ける入園前後での状況の変化に伴う育児意識の変容を明らかにすることを目的とした。

Ⅱ.方 法

1.調査対象及び方法

1)調査対象

倫理上の説明を加え,自由参加としてA県の通所療育施設が子どもを療育園に通わせる母親の入園前後での育児環境における意識調査を独自で行った。任意で回収された無記名の匿名の調査結果を施設長から受け取り分析を依頼される。調査対象協力者は回答を回収したA県療育園に児童を通わせている母親35名分である。回収回答の療育園対象協力者の母親の平均年齢35.7歳である。対象者母親の回答数は,35通(回収率100%)であった。

2)調査方法

(1)質問紙による調査

療育園入園前後での母親の育児環境における意識を,広範囲に把握する目的で,以下の表1の内容の質問紙を用い,療育園が独自に調査を行った。質問紙は質問項目ごとに選択回答である。療育園の各担任職員を通して配付し,療育園で回収した。そして無記名で匿名化した集計結果を施設長から分析依頼され受け取った。

表1 療育園に障害児を通わせる母親の育児意識に関するアンケート内容

(1)回答される人の性別をお答えください。(記名)

(2)回答される方の年齢をお答えください。(記名)

(3)お子様についてご記入ください。療育園の園児は何人兄弟姉妹の何番目ですか。(記名)

(4)「療育園」についてお答えください。 

a-1。保護者様が「療育園」を選んだきっかけ(相談者等)をお書きください。(記名)(具体的内容記名)

1. 児童相談所 2. 保健師 3. 保健所 4. 市役所 5. 学校 6. 保育園 7. 病院

a-2.主な相談内容についてお書きください。(記名)(具体的内容記名)

1. 保護者 2. 近い施設 3. 子供の実態 4. 療育内容 5. 地域別学校区 6. 家族 7. 外来通園経験

b.保護者様が先生に助けられたこととか,先生の対応で何か意見はありますか。(記名)(具体的内容記名)

1. 援助行動 2. 非援助行動 3. 特になし

c.保護者様が(療育者)先生とお子様のことについて話す時間は十分ありますか?(記名)(具体的内容記名) 

1. 十分ある 2. 多少話す 3. 話す時間がない 4. 話す必要がない

d.保護者様が(療育者の)先生に育児相談をしたことがありますか?(記名)(具体的内容記名) 

   1. ある 2. ない

e.保護者様が今悩んでおられることが,もしありましたらお書きください。(記名)(具体的内容記名) 

1. 発達 2. 進路 3. 家族の人間関係 4. パニック 5. 社会の人間関係 6. 療育方法 7. あまりない

f.保護者様が施設について何かご意見はありますか?(記名)(具体的内容記名) 

1. 施設制度 2. 施設内充実 3. 療育条件 4. 現状に満足 5. 特になし

g.保護者様の「療育園」の満足度についておしえてください。(記名)(具体的内容記名)  

1. 療育者 2. 給食 3. 生活 4. 個別指導 5. 行事 6. 地域交流療育 7. 児童相談

h.保護者様の願いや気になることはなんですか?(記名)(具体的内容記名) 

1. 職員定数 2. 療育者の対応 3. 療育時間・内容 4. 母子通園 5. 個人の課題育 6. 給食

7. 願い 8. 専門的療育 9. 個別時間 10. 規則 11. 特になし

i.保護者様は困っている人がいると他の人にも療育園を薦めますか?(記名(具体的内容記名))

1. 是非推薦 2. 推薦 3. 条件付き推薦 4. どちらともいえない

(5)保護者様はお子様に対してさらにどんな療育(教育)を求めていますか?(記名)(具体的内容記名)

1. しつけ 2. 遊び 3. 体力づくり 4. 感覚遊び 5. お絵かき 6. ものの気づき

(2)倫理的配慮

A県の児童を療育園に通わせる母親を対象に,無記名で,個人を限定することなく,自由参加として協力者を募り,療育園入園前後での母親の育児環境における意識の調査を行ったとして,施設長から調査結果を受け取った。そして,調査分析の依頼を受けたことから,以下のa)~e)について口頭及び文書にて説明を行い,自由参加であったため同意を得たものとした。

a)参加は任意で拒否しても不利益は被らないこと。

b)得られた情報は厳重に管理し,本研究以外では使用しない。

c)回答内容はデータとして管理し,個人限定にならないように回答を全体集計として具体的な回答内容は個人に返却する。

d)デジタル化したデータ内の個人情報は存在せず,匿名化して全体のデータとして管理する。

e)データの保存は責任者のパソコン内に保管し,研究終了後は速やかに消去する。

なお,本研究の公正さに影響を及ぼすような利益相反はない。

2.分析の視点

A県通園施設の匿名化された母親のアンケート結果(各質問項目の選択回答や自由記述の内容)をもとに以下の視点で分析した。

各質問項目の選択回答を集計した。但し,未回答は集計にカウントしておらず,複数回答があった場合,重複して集計にカウントしているため,必ずしも合計が35名になっていない質問項目もある。また,回答の割合比率の比較を見るために,χ2検定を実施し,有意差が見られた質問項目については,正確二項検定を用いた多重比較(α=0.05,両側検定)を行った。

上記の結果を踏まえ,療育園入園前後での利用者・家族を取り巻く環境についての状況を広範囲に把握し障害児をもつ母親の環境に関する状況の変化に伴う育児意識の変容を分析した。

Ⅲ.結 果

1.母親のアンケートによる各質問項目の選択回答と検定結果

 以下の表2に,母親のアンケートによる各質問項目の選択回答と検定結果を示す。

表2より,質問項目(1)と(2)に着目すると,アンケートの回答者はすべて母親であり,「母親の年齢(25~29歳,30~34歳,35~39歳,40歳以上の年代別)」についてχ2検定を行った結果,χ2 (3)=6.943となり,有意傾向であった(0.05<p<0.1)。正確二項検定を用いた多重比較を行った結果,25~29歳>30~34歳,に有意差が見られた(p<0.05)。

 質問項目(3)では,「夫婦間の子どもの人数」についてχ2 (4)= 27.143となり有意差が見られた(p<0.01)。多重比較では,1人>3人,1人>4人,1人>5人以上,2人>3人,2人>4人,2人>5人以上,のそれぞれで有意差が見られた。また,「通園児の番目(子目)」についてもχ2 (4)=35.143となり有意差が見られた(p<0.01)。

表2 母親のアンケートによる各質問項目の選択回答と検定結果

多重比較では,1子目>3子目,1子目>4子目,1子目>5子目以上,2子目>3子目,2子目>4子目,2人>5子目以上の各値の間に有意な度数差が見られた(p<0.01)。

 質問項目(4)のa-1の「療育園を選ぶにあたり,相談した行政機関」についてχ2 (6)=14.667と有意差が見られた(p<0.05)。正確二項検定を用いた多重比較では,児童相談所>学校,児童相談所>保育園,児童相談所>病院,となり,有意差が見られた(全てp<0.05)。

また,質問項目(4)のa-2の「療育園」を選択するために相談した行政機関における主な相談内容についてχ2 (6)=13.600と有意差が見られた(p<0.05)。正確二項検定を用いた多重比較では,近い施設>地域別学校区,近い施設>家族,近い施設>外来通園経験,となり,有意差が見られた(全てp<0.05)

質問項目(4)のbの「療育者の支援状況」においてχ2 (2)= 33.800となり「援助行動」と「非援助行動」「特になし」において有意差が見られた(p<0.01)。正確二項検定を用いた多重比較では,援助行動>非援助行動,援助行動>特になし,となり,有意差が見られた(ともにp<0.01)。

質問項目(4)のcの「療育者とのコミュニケーション量への思い」についてχ2 (3)= 29.800となり有意差が見られた(p<0.01)。また,正確二項検定を用いた多重比較では,十分ある>話す必要ない,多少話す>話す時間がない,多少話す>話す必要ない,となり,有意差が見られた(全てp<0.01)。

質問項目(4)のdの「療育者の育児相談上の思い」についてχ2 (1)= 14.235となり,「ない」に比べて「ある」の方が高い有意差が見られた(p<0.01)。

質問項目(4)のeの「今現在の悩み」についてχ2 (6)= 11.226となり,有意傾向であった(0.05<p<0.1)。正確二項検定を用いた多重比較では,発達>療育方法,発達>あまりない,となり,有意差が見られた(ともにp<0.05)。

質問項目(4)のfの通園施設についての思いについてχ2 (6)= 1.182となり有意差が見られなかった。

質問項目(4)のgの「療育園に対して満足していること」についてχ2 (6)= 77.317 となり有意差が見られた(p<0.01)。正確二項検定を用いた多重比較では,療育者>給食,療育者>生活,療育者>個別指導,療育者>行事,療育者>地域交流療育,療育者>児童相談,となり,有意差が見られた(全てp<0.01)。

質問項目(4)のhの「療育園に対して願い・気になること」についてχ2 (10)= 9.259となり有意差が見られなかった。

質問項目(4)のiの「療育園を推薦」についてχ2 (3)= 51.690となり有意差が見られた(p<0.01)。正確二項検定を用いた多重比較では,推薦>是非推薦,推薦>条件付き推薦,推薦>どちらともいえない,となり,有意差が見られた(全てp<0.01)

 質問項目(5)の「求める療育」については,χ2 (5)= 0.486となり有意差が見られなかった。

2.母親のアンケートによる質問項目(4)のa~i及び(5)における自由記述回答結果

 アンケート調査結果から,(4)のa~i及び(5)の計10の質問項目における自由記述の回答を表3 (4)a~d,表4(4)e~h, 表5(4)i,(5)に記す。

表3 質問項目(4)a~質問項目(4)d

質問(4)のaの「療育園」について

 「保健師さんから発作がないんだから訓練の学校に行ったらと言われて」「ろう学校から勧められた」「保育所幼稚園に通うのが難しいなかで,障害児施設があるのを児童相談所の人に聞き,周りの同じ障害を持つお母さんからもいろいろ聞いていて行かせたいと思ったから」「児童相談所からの紹介で見学に来て家族と相談しここで療育してもらえればよくなると思ったから」「育児どころではなかった」「自分自身の人間としての権利を守ろうとして,守られないことで投げやりになっていた」などがあった。さらに,「療育園」の選択理由について,少数回答ではなく様々な表現が存在したが,我が子との出会いの喜びよりも,わが子を授かったことに対しての母親自身の自責の念で母子ともに自暴自棄になり,自分自身だけではなく母子の存在感にまで言及する毎日であり,育児などの考えに至らなかったと回想している自由記述が複数存在した。

質問(4)のbの「療育者の支援状況」について

「療育者からの支援感を得ている」「私を理解してもらっている」「常に親として育児の責任を感じて回避することができないが,一瞬でも責任を代わってもるという安心感がある」「(連続的な)育児の責任を一時的に中断してもらえる」「(先生)療育者から子どもに対する接し方を学ことができる」「(先生)療育者の子どもへの関わり方と子どもの理解から安心感を得られる」「常に親として育児の責任を感じて回避することができないが,一瞬でも責任を代わってもらえるという安心感がある」「精神的に支えられる」「子どものことで落ち込むがその都度先生に励まされている」「親の気持ちも楽しく過ごせるようになった」「知識のある先生方が相談にのってくれるので感謝」「入所して間もない頃このまま成長しないかもと思っていた時,夫に接してくれた先生の明るさに本当に感謝しています」

質問(4)のcの「療育者との話す時間」について

「交流時間が不十分でも個別指導療育で交流時間があると感じている」「普段はゆっくり話す機会がないけど,個別の時には話す時間がある」「先生は何人かの子どもの対応があるので,話す時間がないときもあります」「もっと話がしたいのですが,常に先生方は忙しくしているから話が持ち出せないときもある」などの自由記述があった。

質問(4)のdの「育児相談」について

「育児相談」「子ども(児童)の生活習慣と精神面や医学的な相談をしている」「不安」「人間関係」「家族がペット(鳥)ばかりをかわいがり子どもを相手にしてくれないので腹が立つ」「園と家での対応の相談」「兄が弟との接し方」「声発のこと」「歩行の遅れ」「進路」「(睡眠の時)パニックの対応」「情動行動」などの自由記述があった。

表4 質問項目(4)e~質問項目(4)h,

質問(4)のeの「悩み事」について

「(先生)療育者に理解してもらえないもどかしさがある」「兄弟との関わり方」「座位保持のいい方法」「その時々に起こるパニックが親にとって乗り越えられないでいる」「子どもの進路についての夫との意見の対立」などの自由記述があった。

質問(4)のfの「施設」について

「職員が増えたらいいと思う」「通園バスをもっと有効に利用してほしい」「養育時間の延長をお願いしたいです」などの自由記述があった。

質問(4)のgの「療育園に対して満足していること」について

「常に子どもの立場から物事を考えてくれる」「安心してあずけられる」「先生の数」「先生が優しい」「子どもを無条件で受け入れてくれるところ」「療育全体」「食事指導」「しつけ」「個別指導」「地域交流があって子どもたちの良い刺激になって良いと思います」「育児相談」「子どもを見てもらって満足」「「単独通園でも安心」「給食の献立がいいです」などの自由記述があった。

質問(4)のhの「療育園に対して願い・気になること」について

「わが子を含め他の児童に対して先生の人数が減ると困る」「療育に対して常に安心感が得られず不安に陥る」「療育で児童に対する周りの人の対応に敏感になっている」「療育時間や内容」「障害児が僅かでも健常児に近づき発達するように思っている」「母子通園」「育児放棄するわけではないが,母親自身の時間を奪うため,負担感が大きい」「自分の時間で一人になりたい」「育児に対する責任を逃れる自分の時間が欲しい」「母子通園をすることにより新たに発見できた」「一般的に安全であることでも神経質になってしまう」「もっと良い療育を模索している」「母親自身の独自の問題がある」などの自由記述があった。

「先生への信頼以上に依存しており療育者に期待する点は大きい」「療育者に対して,障害があるだけに児童を大切に扱ってほしい」「療育者の更なる専門性に限界を感じている」「精神的に余裕があれば気にならないことでも受け止めにくい状況になってしまうこともある」がある。「個別時間」についての回答には,「個別指導は療育の時間外で負担感がある」「母子通のこと」「養育の時間内でも個別療育があればいいと思う」などの自由記述があり,選択回答の検定結果に有意差が見られないことから,「療育園に対して願い・気になること」については,入園前においては育児や療育に対するニーズがあったが,入園後には個々の児童において,障害種別や発達における課題の違いが生じてきており,母親は我が子に関する関わりから願いや気になる課題が多岐にわたっていっていると考えられる。

表5 質問項目(4)i,質問項目(5)

質問(4)のiの「療育園の推薦」について

「先生にいろいろ相談もできる」「私も通園して本当によかったと思うから」「人それぞれとは思いますが,子どもが入園できてよかったので勧めてあげたいです」「親も勉強になります」「不安なことがたくさんありますが,先生や先輩の保母さん方から話が聞ける」「先生たちのお陰で子どもはすごく伸びたから」「療育内容が良いから」「子どもが良い意味で変わったから」「障害児で自由保育のなかで放ったらかしなら勧めます」「母子通園の重圧感との葛藤がある」「療育を必要としている人がいるのならば勧める」「保護者にとっても心のよりどころになるのではないでしょうか」の自由記述があった。

母親自身が療育園を選択した際,回想して思ったことを綴った自由記述として,「ここへ来るまでの状況はみんな少しずつ違うけれど,母親同士の様々なところでみんな同じように思っていたのかと思う」「本当に困っている人にはこの療育園を推薦すると思う」「ここにいると実子への接し方が分かり,自信はないけど実子が一般的な発育を遂げていないことを理解し,安心して実子に接して行くことができることを自分の中で確認することができる」「この子への接し方もわからないし、自分自身を否定することばかり考えて,眠れない日が続いていた」「先生たちは4,5時間でいいけど親はあとの24時間から引いたものを一緒にいないといけないのに先生たちは親のことをわかってもらえないから腹が立つ」「療育園に来る前にはいつも同じことばかり不安があった。だけど療育園に来てから不安が解消し,同じことでもまた次の不安が湧いてくるかな」などの自由記述があった。

さらに,母親たちには,「障害児を産んだことはずっと頭から離れず,どうにかなりたい思いは途切れることもなかった」「障害児を産んだことはずっと頭から離れず,途切れることもなかった」「なんでこの子を産んだのかと親戚中から責められて,前は毎日この子と一緒にどこかいなくなることを考えていた。でも今は違う。この子のしぐさや行動すべてがかわいくて,言うことを聞いてくれなかったら腹が立つときもありますけどね」「ここに来る前は一人ぼっちでいなくなることばかりで何も考えられなかったけど今はお爺ちゃんもお婆ちゃんもみんなこの子を可愛がってくれる」「私は悪いことしてないのにうちだけがなんで,こんな目に合わなければいけないの」など入園前の母親の自己否定の回想としての記述はあったが入園後には我が子の可愛さを感じながらの療育の楽しさを回想した人はすべて付加していた。

質問(5)の「求める療育」について

「お友達との関わり」「基本的な生活習慣を身につける」「食べること」「排泄」「話し方」「発声」「「鉛筆の持ち方」「外遊びをもっとしてもらいたい」「こどもの問題に沿った療育」などの自由記述があった。「無回答」についての記述には「一つの質問に対して簡単に番号で答えられない」「そんな単純なものではない」「もっと書くところを準備してほしい」などの自由記述があった,

Ⅳ.考 察

「Ⅲ.研究結果」の表2の質問項目(1)~(3)における選択回答の検定結果に着目すると,母親の年齢幅において有意差は見られず,育児に関する課題に個人差があることが窺える。また,この施設の母親の児童数は1子と2子が多く,通園している児童は1子目と2子目が多いことが特徴である。

さらに,質問項目(4)のaにおいて,母親が療育園を選んだきっかけに関して,選択回答の検定結果に有意差が見られなかった。また,自由記述において,「児童相談所の人に聞き,周りの同じ障害を持つお母さんからもいろいろ聞いていて行かせたいと思ったから」「保健師さんから発作がないんだから訓練の学校に行ったらと言われて」「ろう学校から勧められた」「保育所幼稚園に通うのが難しいなかで,障害児施設があるのを児童相談所の人に聞き,周りの同じ障害を持つお母さんからもいろいろ聞いていて行かせたいと思ったから」など相談機関や相談者に関して多岐にわたっていることが窺える。

質問項目(4)のbの療育者の援助行動の検定結果において有意差が見られた。また,自由記述において,「療育者からの支援感を得ている」や「私を理解してもらうこと」「常に親として育児の責任を感じて回避することができないが,一瞬でも責任を代わってもらえるという安心感がある」の意見が述べられ,母親は,療育者から援助行動の恩恵を受けていると感じていることが如実に窺える。

質問項目(4)のc及びdの療育者との相談時間や相談の有無についての検定結果において有意差が見られた。また,自由記述において,「交流時間が不十分でも個別指導療育で交流時間があると感じている」「子ども(児童)の生活習慣と精神面や医学的な相談をしている」「進路」「家族の人間関係」「児童の将来の不安」の意見が述べられ,母親は療育者との相談に関して満足していると考えられる。

質問項目(4)のe及びfの「悩み事」について,「施設」について選択回答の検定結果に有意差が見られなかった。また,自由記述において,「子どもについての悩み事」「施設」に関して子どもを中心に捉えた直接の課題が出てきているため,まとまった意見にならず母親の価値観の多様化が生まれ,意見が多岐にわたったと考えられる。

質問項目(4)のgの「療育園に対する満足」について,検定結果において有意差が見られた。また,自由記述において,「常に子どもの立場から物事を考えてくれる」「安心してあずけられる」「療育全体」「食事指導」「しつけ」「個別指導」「地域交流があって子どもたちの良い刺激になって良いと思います」「育児相談」など,母親は,療育者の支援をありがたく思い,同時に満足感を得ていると考えられる。

質問項目(4)のhの願いや気になることについて,選択回答の検定結果に有意差が見られなかった。また,自由記述において,「職員定数等」「療育者の対応」「療育で児童に対する周りの人の対応に敏感になっている」「療育時間」「障害児が僅かでも健常児に近づき発達するように思っている」「母子通園」「育児放棄するわけではないが,母親自身の時間を奪うため,負担感が大きい」「自分の時間で一人になりたい」「育児に対する責任を逃れる自分の時間が欲しい」「個人の課題について,同じように通園する他人とは違う」「母子通園をすることにより新たに発見できた」「母親自身の独自の問題がある」「給食について,一般的に安全であることでも神経質になってしまう」「もっと良い療育を模索している」「療育者に対して,障害があるだけに児童を大切に扱ってほしい」「願いについて,精神的に余裕があれば気にならないことでも受け止めにくい状況になってしまうこともある」「先生への信頼以上に依存しており療育者に期待する点は大きい」「療育者の更なる専門性に限界を感じている」「個別時間について,個別指導は療育の時間外で負担感がある」「母子通のこと」「養育の時間内でも個別療育があればいいと思う」がある。選択回答の検定結果に有意差が見られないことから,多岐にわたっていることが窺える。

質問項目(4)のiの「療育園の推薦」について,検定結果において有意差が見られた。また,自由記述において,「私も通園して本当によかったと思うから」「人それぞれとは思いますが,子どもが入園できてよかったので勧めてあげたいです」「親も勉強になります」「先生にいろいろ相談もできる」「先生たちのお陰で子どもはすごく伸びたから」などがある。しかし,「推薦」との有意性は見たものの,積極的に推薦に傾いたわけではなく,以下のような自由記述がある。「母子通園の重圧感との葛藤がある」「療育を必要としている人がいるのならば勧める」「ここへ来るまでの状況はみんな少しずつ違うけれど,母親同士の様々なところでみんな同じように思っていたのかと思う」「本当に困っている人にはこの療育園を推薦すると思う」があった。また,推薦内容の考慮にあたり,母親が回想したであろう内容として,「障害児を産んだことはずっと頭から離れず,どうにかなりたいと途切れることもなかった」「今は眠れない時もあるけれど,あの時は子どもと消えることばかり考えていたがずっと楽になったのかもしれない」「ここにいると実子への接し方が分かり,自信はないけど実子が一般的な発育を遂げていないことを理解し,安心して実子に接して行くことができることを自分の中で確認することができる」「なんでこの子を産んだのかと親戚中から責められて,前は毎日この子と一緒にどこかいなくなることを考えていた。でも今は違う。この子のしぐさや行動すべてがかわいくて,言うことを聞いてくれなかったら腹が立つときもありますけどね。」「ここに来る前は一人ぼっちでいなくなることばかりで何も考えられなかったけど今はお爺ちゃんもお婆ちゃんもみんなこの子を可愛がってくれる」「私は悪いことしてないのにうちだけがなんで,こんな目に合わなければいけないの」「この子への接し方もわからないし,自分自身を否定することばかり考えて,眠れない日が続いていた」「不安なことがたくさんありますが,先生や先輩の保母さん方から話が聞ける」「子どもが良い意味で変わったから」「保護者にとっても心のよりどころになるのではないでしょうか」「障害児で自由保育のなかで放ったらかしなら勧めます」「入園するまではこの子と消えたいと思っていて子どもが生まれてからほとんど眠れなかった」「先生たちは4,5時間でいいけど親はあとの24時間から引いたものを一緒にいないといけないのに先生たちは親のことをわかってもらえないから腹が立つ」「療育園に来る前にはいつも同じことばかり不安があった。だけど療育園に来てから不安が解消し,同じことでもまた次の不安が湧いてくるかな」などの自由記述があり,これらのことからもすでに療育園に通園している母親は自分の当時の入園前のことを回想していると推察できる。また,療育園に通園している母親は入園前後での子どもを取り巻く環境から母親の置かれている育児の状況を比較して,入園後のこれから入園する母親のことを思い簡単に推薦ができない複雑な思いを自由記述に綴っている面も窺える。

質問項目(5)の「求める療育」について,選択回答の検定結果に有意差が見られないことから,「求める療育」に関して多岐にわたっていることが窺える。

上記の質問項目(1)~(5)の統計結果において有意差が見られた項目に着目すると,各項目における自由記述内容からも,主に「療育者に対する満足度」を示したものであった。一方で,有意差が見られなかった項目と,各項目における自由記述内容から,「療育園の施設面や指導員の体制面,子どもへの直接の悩み(育児に関する思い)」などが示されていた。これらの母親のアンケート結果から,母親は,育児に関する様々な苦悩を乗り越え,積極的な育児へとつながったため,母親の育児に関する思考が多岐にわたって存在するようになったと省察される。

以上の様々な結果から,子どもを授かった際から母親は育児に関する意識を持つどころではなかった。また,子どもを含めた母親自身の存在感を否めるまでの考えにおよび,子どもを授かった喜びを感じるどころではなかった。さらに,母親は育児意識を十分に持てないまま,療育園に辿り着く(自分の子どもを療育園に入園させる)まで非常に育児に関して母親が苦しい思いをしていたことが如実に窺える。結果的に,子どもを入園させることにより,療育者の支援を受け,子どもを中心とした育児意識に芽生え,施設への希望を持ちながら子育てにとって大切なことを習得し母親としての成長をしている。入園以前の母親の置かれている育児の環境から,母親は状況を判断し,育児意識の成長をしていったことが窺える。

母親たちが適切に育児意識を持ち,育児意識を向上させることは,社会的な支援が必要である。例えば,社会的な支援として,障害のある児童の公的な機関とのつながりをもつことで,母親の育児意識が,子どもの理解へと繋がる。例えば,一般的に周産期からの検診は充実しているとされる。しかし,A県の施設において,質問紙に回答した母親たちは,療育園に子どもを入園させる以前,育児環境にも恵まれず,児童の年齢相応の育児に向かう感情に至っておらず,外出することを極端に拒絶し,外界からの情報に触れることがなかったのである。定期検診を受診していない母子がいたことは現実である。母子保健法(健康検査)項目により1歳6か月検診と3歳児検診は法律で定められており(厚生労働省,1965),公衆衛生上,子どもの発達や母親の健康状態を把握することができる。その際,障害のある児童や育児の困難性が疑われる母親のケースに関しては,検診により育児上の問題点が明らかになる可能性が高くなる。しかし,諸事情で検診を受診しなかった母子の場合,検診による診断結果からその後の公衆衛生上のサービスを受けられなくなってしまう可能性がある。仮に,検診を受診しない障害児や育児の困難性が疑われる母親のケースにおいては,その後の公衆衛生上のサービスが受けられないため,児童と母親は育児に困難性をきたしていく可能性があると考えられる。検診に漏れた母子に,個別の家庭訪問を強化する対策などを講じて,すべての母子に検診が行き届いて行われていたのであれば,その後のすべての母子が納得して子どもを適切な進路に繋げていくことができたと考えられる。そして,子育て支援上の問題は生じることは少なくなると思われる。

検診において,このような母子がいた場合,子育て支援の対象として,公共サービスが相談窓口となり,一時的に子育て支援を担うことができると思われる。公共サービスは公衆衛生全般的に行われるだけでなく,子育て支援において個々のケースの子育て支援を担っていくことも重要な要素であると考えられる。そして,サービスの具体性により母親は,身体的精神的なケアを受け,障害が疑われた場合の児童は適切な療育を受けることになる。結果的に,児童を授かった母親たちは公衆衛生上のサービスを利用し,あらゆる必要に応じた子育て支援のサービスを受けられると考えられる。

本研究では施設の母親の意識調査から,障害児が療育園に入園することにより,障害児を持つ母親の育児に関する環境から受ける入園前後での状況の変化に伴う育児意識の変容を明らかにしてきた。今後はこの母親たちの障害のある児童がどのように変容していったのかを含め,母親の育児に関する環境から受ける入園前後での状況の変化とその関わりについての知見を深めていきたい。

引用文献

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厚生労働省 2015 健やか親子21(第2次)〈http://sukoyaka21.jp/〉(2019年5月5日参照).

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