日本生態学会大会講演要旨集
第51回日本生態学会大会 釧路大会
セッションID: L4-4
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釧路湿原再生のための現地調査報告
*中村 隆俊
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抄録

 釧路湿原で行われている自然再生事業では、湿原生態系の劣化状況の把握やその原因の特定および保全・再生方法の模索が試みられている。そのモデル地区の一つとして詳細な調査が行われているのが、釧路湿原の辺縁部にあたる広里地区である。
 広里地区の一部は、かつて排水路の掘削や土壌改良資材の投入により一時的に農地改変されたのち放棄されたまま現在に至っており、隣接する河川についても流路切り替え工事により上流と分断されているなど、様々な人為的攪乱の痕跡が広里地区内には存在している。また、そのような直接的攪乱を受けていない部分では、ここ数十年間で湿性草原からハンノキ林への急激な樹林化が広範囲で進行している。このような広里地区の特徴は、釧路湿原の辺縁部一帯や国内の多くの湿原が抱えている湿原保全上の問題点(一時的農地改変や樹林化)と重なる部分が多く、湿原保全・再生方法開発に関するモデル地区としての重要な要素となっている。
 2002年度から開始された現状調査では、広里地区における植生と環境要因の対応関係を農地改変とハンノキ林増加という視点で整理し、湿原生態系保全の立場から植生的な劣化とそれに対応する環境的劣化の評価を試みた。さらに、03年度からは、ハンノキ伐採試験区および地盤掘り下げ試験区の設置を行い、それらの試験区における植生と環境の挙動に関するモニタリングや、近隣河川の堰上げを想定した地下水位シミュレーションのための基礎調査など、最適な保全・再生手法開発のためのデータ収集を続けている。
 現段階では、隣接河川の分断が放棄農地部分での乾性草原化を招いていることや、ハンノキ林の分布と高水位時の水文特性が密接な関係にあること、ハンノキ伐採によりミズゴケ類が枯死すること等が明らかとなっている。発表では、これまでの主な調査・解析結果について紹介すると共に、今後の展開についてお話ししたい。

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© 2004 日本生態学会
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