抄録
釧路湿原は釧路川流域の最下流端に位置し、土地利用に伴う汚濁負荷の影響を累積的に受けている。汚濁負荷のうち特に懸濁態のウォッシュロードは、浮遊砂量全体の約95%にのぼる。既存研究より、直線化された河道である明渠排水路末端(湿原流入部)で河床が上昇し、濁水が自然堤防を乗り越えて氾濫していることが明らかになっている。Cs-137による解析から、細粒砂堆積スピードは自然蛇行河川の約5倍にのぼり、湿原内地下水位の相対的低下と土壌の栄養化を招いている。その結果、湿原は周辺部から樹林化が進行しており、木本群落の急激な拡大が問題になっている。こうした現状を改善するために、様々な保全対策が計画ならびに実施されつつある。釧路湿原の保全対策として筆者が考えていることは、受動的復元(passive restoration)の原則であり、生態系の回復を妨げている人為的要因を取り除き、自然がみずから蘇るのを待つ方法を優先したいと思っている。さらに、現在残っている貴重な自然の抽出とその保護を優先し、可能な限り隣接地において劣化した生態系を復元し、広い面積の健全で自律した生態系が残るようにしたい。そのために必要な自然環境情報図の構築も現在進行中であり、地域を指定すれば空間的串刺し検索が可能なGISデータベースを時系列的に整備し、インターネットによって公開する予定である(一部は公開済み)。