日本生態学会大会講演要旨集
第51回日本生態学会大会 釧路大会
セッションID: P2-019c
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ハサミムシ類の系統関係と交尾行動にみられる左右性
*上村 佳孝
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抄録

 直翅系昆虫の一群であるハサミムシ類(Suborder: Forficulina)の雄の交尾器形態は多様であり,交尾器形態の進化の探求に格好の機会を提供している.virgaと呼ばれる挿入器が2本のグループ(ムナボソ,ドウボソ,マルムネ,オオハサミムシの各科)と1本のグループ(クロ,テブクロ,クギヌキハサミムシ各科)があり,従来,形態形質に基づく分岐解析から,前者から後者が派生した(=2本のうちの一方が失われて1本になった)と考えられてきた.しかし,分岐解析において,「挿入器が2本ある状態が祖先的である」と仮定されているため,交尾器の進化に関する議論は循環論に陥っており,各研究者による系統仮説も多くの点で一致をみていなかった.
 本研究では,このような状況を解決するため,7科16種のハサミムシ類についてミトコンドリア16S,核28SのrRNA遺伝子の部分塩基配列による分子系統解析をおこなった.両遺伝子から推定された内群関係はよく一致し,結合データの解析および最尤法による有根系統樹は以下の諸点を明らかにした.1.挿入器を2本を持つ状態が祖先的であり,1本しか持たないグループ(3科)はそこから派生した単系統群である.2. 挿入器を1本しか持たないグループの姉妹群はオオハサミムシ科である.
 また,「なぜあるグループは1本の挿入器を失ったのか?」という疑問に対しては,これまで明確な仮説が与えられてこなかった.今回,2本の挿入器を持つ各グループのハサミムシ類について,交尾器の形態,挿入器の使用,交尾行動を検討したところ,オオハサミムシにおいて,他のグループでは観察されていない一方の挿入器(右)に偏った使用が観察された.これらの観察結果を得られた系統樹の上で議論し,ハサミムシ類における挿入器の退化過程について仮説を提示したい.

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© 2004 日本生態学会
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