過去にヤギの放牧で壊滅的な状態だった小笠原諸島の南島においてヤギの完全駆除から約30年たった植生の回復状況をドリーネ地形に沿った地形的な植生パターンと種多様性構造に注目して解析した。調査は地形に沿っていくつかのトランセクトを設置し、種類、最大高、被度を測定した。トランセクトは、1m×1mのコードラートを最小単位とし種数が飽和するまでコードラートを連結し、その立地の代表的な種群が全て含まれるようにした。その結果、ソナレシバ型、イソマツ型、コウライシバ型、ハマゴウ型、コハマジンチョウ型、モンパノキ型、クサトベラ型という7つの植生タイプが区分され、それぞれドリーネ内側と外側、斜面と尾根というように地形に対応して植生が分化していた。これは南島において30年を経てようやく植生パターンが形成され安定した状態になりつつあることを示しており、全種数が約60種で種飽和状態を示していることからも支持されると考えられた。ただし、種数の増加の背景には観光利用に伴うクリノイガなど人為的に散布されたと考えられる外来種の侵入が大きく影響しており、保護と適正な利用に向けて今後の保全策が求められている。