日本生態学会大会講演要旨集
第52回日本生態学会大会 大阪大会
セッションID: F210
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気候と森林動態が年輪幅の中期変動に及ぼす影響の数量的区分
*伊勢 武史ムーアクロフト ポール
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抄録

年輪幅の変動には気候などの外的要因との相関に加えて森林動態などによる内的要因に関するさまざまな情報が含まれている。しかし、由来と時間スケールの違うシグナルが重なり合っているためその分析は難しい。この研究では、過去の気候などの補助的なデータを用いずに、気候と森林動態のそれぞれが年輪幅の中期変動(約10年から30年周期)に及ぼす影響を区分することを試みた。カナダ中部の大陸性北方林からクロトウヒ(Picea mariana)が生育する林分を選定し、それぞれの林分に3つのプロットを設定し優占的な個体から年輪試料を採取した。データを波形分析し移動平均の発展形Stand Dynamics Indexを用いることで、エラーに強く森林生態に即した中期変動を抽出した。年輪の中期変動が気候に由来しているなら各プロットの変動には同時性があると仮定し、時間依存性ANOVAでプロットの違いによって説明される分散の割合、つまり森林動態による影響の割合を得た。結果、泥炭地では平均44.9%の分散がプロットの違いによって説明された一方、鉱質土では平均0.0%の分散しか説明されなかった。泥炭地のクロトウヒは気候の中期変動と比較的切り離されていたが、鉱質土のプロット間では年輪幅の中期変動に同時性があることが分かった。生育環境のよい鉱質土では生長率の個体差が大きいこともあり、プロットごとに違う森林動態によって説明される分散は検出されなかった。北方林ではほかの気候帯と比べて温暖化が著しいと予測されるうえに、気候変動によって泥炭の分解が促進され温暖化がさらに進む正のフィードバックが懸念されている。樹木の成長率に及ぼす気候変動の影響の度合いの研究は、現在開発中の北方林の植生・気候・物質循環の統合的モデルの中で活かされる。

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© 2005 日本生態学会
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