日本生態学会大会講演要旨集
第52回日本生態学会大会 大阪大会
セッションID: P1-060
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隔離分布するブナ林の繁殖能力の評価
*譲原 淳吾花岡 創津村 義彦向井 譲
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抄録

西南日本及び太平洋側の山岳地帯に隔離されたブナ林は、稚幼樹が少なく、成熟木がほとんどを占めているため、今後、急速に衰退していくことが懸念されている。稚幼樹が少ない原因には、堅果散布後の発芽や実生の定着と密接な関連をもつ積雪時期や積雪深などが日本海側と大きく異なることに加えて、充実した堅果がほとんど生産されないことが指摘されている。したがって、ブナの天然更新をはかるためには充実堅果が生産されない原因を解明する必要がある。
当研究室では、富士山南西斜面2合目のブナ天然林にシードトラップを設置し、落下堅果の充実率、シイナ率、虫害率を調査した。その結果、虫害が多いことに加えて、シイナが多いことも充実率を低下させる原因であることが明らかになった。そこで、1998年、2000年及び2003年の3回にわたって、隔離分布した局所集団に生育する複数の個体を対象に人工交雑を行い堅果の充実率に及ぼす自家不和合性や近交弱勢などの遺伝的要因を調べた。その結果、いずれの年度、母樹においても自家受粉では大部分がシイナになったため、ブナが強い自家不和合性を示すことが明らかになった。また、遠く離れた個体を花粉親とした交雑で得られた堅果に比較して近隣個体を花粉親とした交雑で得られた堅果の充実率が有意に低かった。このことから、花粉親と母樹との空間的な距離が堅果の充実率に影響を及ぼすことが明らかになった。また、RFLP分析の結果、集団内に遺伝的構造がみられた。さらに、遺伝的血縁度と堅果の充実率には負の相関が認められた。すなわち、近くに存在する遺伝的にも近縁な個体間の交雑が堅果の充実率の低下を引き起こしていることが推定された。

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© 2005 日本生態学会
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