抄録
近年のメタ個体群にまつわる研究によって、生物個体群はいくつかの局所個体群から構成されており、単独では不安定なその局所個体群が、相互間の移動分散によっておのおの絶滅と再生を繰り返しつつ個体群全体として安定的に存続していることがわかってきた。その一方で、局所個体群レベルで動態が安定している種も存在する。この場合も、局所個体群の中にさらに局所的な生息地が存在し、その生息地相互間での移動が局所個体群の動態を安定化するにあたって重要ではないかと考えられる。そこで、そのような“安定的”な種と思われるウスバシロチョウParnassius glacialisを対象として、京都において標識再捕獲調査を行なった。その結果、ウスバシロチョウはもっぱら短距離のランダムな移動を行ない、狭い範囲内にとどまることが多いことがわかった。それゆえ本種では生息地間あるいは局所個体群間の移動のネットワークは貧弱であり、個体群動態の安定化は他の要因によることが大きいものと考えられた。