日本生態学会大会講演要旨集
第52回日本生態学会大会 大阪大会
セッションID: P1-128
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植生帯再生事業地に成立する地表性甲虫群集
*小川 潤須田 真一鷲谷 いづみ
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抄録
 霞ヶ浦はかつて広大な植生帯をもつ湖であったが、護岸工事、水位操作、水質悪化により湖岸植生帯の多くが失われ、そこに依存する昆虫の生息場所も喪失した。2000年から土壌シードバンクを利用した湖岸植生帯の再生を目指す自然再生事業が実施され、造成された人工湖岸には多様性の高い植生がよみがえった。
 ゴミムシ類は環境選好性が高く、湿地環境に生息する種が多いため、湖岸植生帯の再生に伴う昆虫群集の発達をモニタリングするための対象としてふさわしい。また、多くの種が地表で生活するため、ピットフォールトラップ法による定量調査が可能である。
 本研究は、事業地(4ヵ所)と残存植生帯(1ヵ所)においてゴミムシ類を調査し、群集とその季節変化ならびに年次変化を比較した。
 調査全体を通じて、ツヤキベリアオゴミムシ、エチゴトックリゴミムシなど希少な種を含む74種を確認した。4ヶ所の事業地では種組成が類似していたのに対し、残存植生帯の種組成は事業地とは大きく異なっていた。残存植生帯では季節を通じて群集構造に大きな変化がなかったが、事業地では春には春繁殖型の種が優占し、秋には秋繁殖型の種以外はほとんど確認できなかった。さらに、同じ事業地内でも異なる植生が見られる場所の間では種組成が大きく異なっていることが明らかになった。また、事業地で生息するゴミムシ種の多くは、残存植生帯、谷津田など近縁の湿地との間で移入、移出を繰り返している可能性が示唆されたが、事業地が繁殖場所や幼虫の生育場所として役立っている可能性が高い。このような多様な植生を再生させる事業は、地表性甲虫に対して多様な生息場所を与え、種多様性を高める効果をもたらしているものと考えられる。
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© 2005 日本生態学会
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