日本生態学会大会講演要旨集
第52回日本生態学会大会 大阪大会
セッションID: P1-185
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多摩川におけるカワラバッタのメタ個体群に関する研究
*野村 康弘倉本 宣
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抄録

カワラバッタEusphingonotus japonicus (Saussure)は砂礫質河原という植生がまばらな河原に特異的に生息する昆虫である。近年各地で減少が著しく、東京都では絶滅の危機が増大している種と選定されており、一刻も早い対策が求められている。本種は主に被植度の少ない砂礫質河原に好んで生息することが先行研究により報告されているが、それ以外の保全に関する情報は今のところ報告されていない。そこで、多摩川における本種のメタ個体群を把握し、保全に関する基礎的知見を得ることを目的とし、研究を行った。調査対象地は多摩川の河口から51-59kmの範囲にある14の生息地で行った。調査方法は成虫が出現した時期から、個体に識別番号と個体群の情報をマーキングし、個体コード、性別、捕獲した地点をそれぞれ記録した。調査は2004年7月-10月にかけて行った。総捕獲数は6271匹で、再捕獲数は1630匹だった。その中で生息地間を移動した個体は85匹であった。各個体群の面積と移出率(移出個体数/再捕獲数)を対数モデルで検討したところ、強い負の相関が認められた(R=0.675、p<0.01)。また、出水後の調査により、多摩川における本種の生息地のほとんどが水に浸かるということが明らかになった。以上のことから小さい生息地が多数あることにより、本種の移動、生息地間ネットワーク化を促進し、出水による絶滅回避の確率を高くすると思われる。大きい生息地が少数存在している場合には、大規模な出水により個体群は大きなダメージを受ける可能性が高いことから、本種の保全戦略としては小さな生息地が多数存在するように管理することが重要であると考えられる。

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© 2005 日本生態学会
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