日本生態学会大会講演要旨集
第52回日本生態学会大会 大阪大会
セッションID: P2-009
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尾瀬における植物群落への木道設置の影響
*伊藤 祥子谷本 丈夫
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抄録

 尾瀬において木道設置が湿原植生におよぼす影響を,表層水が豊富な湿原である尾瀬沼の大江1,大江2,オンダシとそうでない湿原である尾瀬ヶ原の山ノ鼻,上田代,牛首とで明らかにすることを目的として次の調査を行った.1.木道間,木道外側,木道より離れた場所の群落構造,2.ミズバショウ及びヌマガヤの草丈とそれらの確認地点から木道までの距離との関係を各調査地で調べた.尾瀬沼の木道間と木道外側では,木道から離れた場所とは全く異なる群落が出現し,木道外側では流水路内など表層水が認められる凹地に生育するミズバショウ,木道間では凸地を好み,乾燥した草地でも認められるワレモコウやニッコウキスゲなどが優占した.尾瀬ヶ原でも,木道周辺と木道から離れた場所の間で群落は著しく異なった.ただし,木道外側と木道間でワレモコウやアキノキリンソウが出現し,群落はあまり変わらなかった.尾瀬沼の木道外側のミズバショウは木道からの距離が近いほど大きく,これは木道の腐朽による有機物の分解,支柱付近の泥炭の掘り返しや有機物を含む伏流水の湧出などによる木道周辺で富栄養化が起こったためと思われる.しかし,木道間のミズバショウは木道外側に出現した個体に比べて小さく,理由は木道間の泥炭が分解して土壌化が進んだためと考えられる.一方,尾瀬ヶ原のヌマガヤは木道間,木道からの距離が近いほど大きかった.木道設置により,木道設置以前にはなかった群落が成立していた.ただし,表層水の多い湿原では,木道間には土壌化した乾燥地,木道外側には流水路を作り出し,各条件あった群落を作る一方,表層水の少ない湿原では,木道間と木道外側ともに乾燥した立地環境で,そこに適応する群落を成立させるなど,表層水の状態によって木道設置の影響は異なることが推察された.

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