日本生態学会大会講演要旨集
第52回日本生態学会大会 大阪大会
セッションID: P3-015
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スズランの花の分布パターンと繁殖成功の空間解析
*荒木 希和子島谷 健一郎大原 雅
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抄録
クローン植物における種子散布の程度やクローン成長による広がりは、集団内に遺伝的な空間構造をもたらす。このような構造は、隣家受粉や近交弱勢の影響を介して有性繁殖による繁殖成功に影響を与えることが考えられる。同時に、開花シュートの分布パターンは、ポリネーターの訪花頻度や採餌行動に影響し、他家受粉のレベルに影響することが考えられる。そこで、自家不和合性を示すクローン植物スズランにおいて、集団の遺伝構造や開花個体数が結果率に影響を与えるかを、野外調査ならびにロジスティックモデルをもとにした数理モデルによって検証した。その結果、一定範囲内に存在する異なるジェネットの開花個体が多いほど、結果率は増加するが、次第に飽和し一定になることが示された。また、花密度が高いと結果率は下がる傾向があり、一方、花密度が低い場合には周囲の開花個体と結果率との間に明らかな関係は認められなかった。このことにより、異なるジェネットの花は和合花粉を提供すると考えられることから、結果率は和合花粉の供給量によって大きく左右されることが明らかになった。しかし、ポリネーターの行動範囲が限られるため、近隣に存在する異なるジェネットの開花個体がより重要であることも示唆された。さらに、花密度はポリネーターの誘引効果に影響を及ぼすと考えられるが、花密度が低い場合には、十分なポリネーターを誘引することができず、結果は和合花粉量に関係なく偶然の訪花により左右される。一方、花密度の高い場所では、隣家受粉が生じやすくなることや個体当たりの訪花頻度や花粉供給量が制限されるため、結果率は下がることが示唆された。このように、集団内における花の分布パターンとその遺伝構造は、個体の繁殖成功に大きな影響を与えていることが明らかになった。
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© 2005 日本生態学会
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