抄録
株立ち型木本植物の中には,攪乱によって損傷をうけた樹体を修復するためでなく,その構成幹を更新するために,自律的に萌芽によって幹交換する種が存在する(例えば,クロモジ,イヌブナ,カツラ).これらの植物では,娘幹は母幹の根元から萌芽し,母幹からの同化産物の供給を受けて母親の樹冠下で成長する.母幹が枯死すると,娘幹は母幹が占めていた樹冠空間を埋め更新が完了する.
地上幹は繁殖機能をもつことを考えると,その幹交換過程において株自身の繁殖量を最大化するような幹交換タイミングが存在するはずである.例えば,母幹は生理的限界まで生存して繁殖し,娘幹へその占有空間を譲り渡すより,生理的限界以前のある時点で枯死して娘幹にその占有空間を譲り渡した方が,株個体としての繁殖量は多くなる可能性がある.そこで我々は,株サイズが定常に達した株における最適幹交換モデルを構築した.林床低木クロモジ(Lindera umbellata)を対象に,野外に生育する株での幹交換が,モデルの予測するタイミングで生じているかどうかを検証する.