日本生態学会大会講演要旨集
第52回日本生態学会大会 大阪大会
セッションID: P3-044
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ベニズワイChionoecetes japonicusの成長・成熟に伴う浅深移動パターン
*養松 郁子廣瀬 太郎白井 滋南 卓志
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抄録

ベニズワイChionoecetes japonicusはクモガニ科ズワイガニ属に属する大型のカニで、生息水深が2700mに及ぶ深海性種であるにも関わらず、主要な漁獲対象種となっている。しかし近年では漁獲量が著しく減少し、過度の漁獲圧がかかっている可能性が高い。本種の分布生態ならびに大型オスのみにかかる漁獲圧が再生産に与える影響を明らかにすることを目的として調査を行った。
2003年夏季に日本海中央部の大和堆、2004年夏季に兵庫県沖合および佐渡島北部海域において、最大で水深2000mまでの着底トロール網または桁網による採集調査を行った。定点ごとに採集個体数・重量を記録し、原則として全個体について甲幅、成熟度等の測定を行った。一部サンプルを固定して持ち帰り、生殖腺重量の測定など詳細な測定を行った。
雌雄ともに甲幅10-20mmの稚ガニは水深1200-1500mに多く分布し、甲幅40mmくらいまでは成長に伴って深場へ移動、その後成熟に伴って再び浅場へ移動することが示唆された。とくにメスは成熟脱皮後に浅場への移動を開始すると推定された。このような深度分布パターンは、水深2000mを超える深海まで続く斜面上にある海域では明瞭にみられたものの、盆地様の傾斜の緩い海域(兵庫県沖合)ではあまり明瞭ではなかった。抱卵メスの抱卵数は水深によって異なり、深場では有意に少なかった。実験室での測定結果から、オスの生殖腺は鉗脚が相対的に大きくなる脱皮以後に発達すること、メスの卵巣重量は初産前個体・抱卵個体で差がないことが示唆されたため、深場では大型オスが少ないために精子制限が起こっている可能性がある。これが漁獲圧によって引き起こされたものか、本来の生態的特徴なのかの判断にはさらに検討を要する。

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© 2005 日本生態学会
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