日本生態学会大会講演要旨集
第52回日本生態学会大会 大阪大会
セッションID: P3-095
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衰退程度の異なるウダイカンバ林分間でフユシャク類による葉の食害状況はどう異なるか?
*松木 佐和子大野 泰之滝谷 美香渡辺 一郎原 秀穂
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抄録

北海道では、様々な落葉広葉樹を食害する食葉性昆虫、フユシャクガの大発生が約10年に1度の頻度で報告されている。2004年6月の調査では、断片的ではあるが数多くの林分で高密度のフユシャク類とその食害が北海道の広域で観察された。構成種が似通った林分間でも、その食害程度が異なる事が観察されたが、その要因は明らかにされていない。北海道北部のオホーツク海側に位置する興部周辺には、ウダイカンバの山火再生林が広がっているが、近年、一部の林分で林冠枯死による衰退が顕在化している。そこで本調査では、衰退程度の異なるウダイカンバ林分間でフユシャクガによる食害程度は異なるか?そしてその理由はなぜか?について調べることを目的とした。これまでの他研究では、水分ストレスを受ける乾燥した生育環境では、葉内の窒素濃度が高まり、食害を受けやすい(大発生が起こりやすい)という見解が多く示されている。しかし結果は予想に反して、衰退程度が中程度の林分で最も食害率が高く、最も衰退が進んだ林分および最も枯死木が少ない健全な林分で食害程度が少なかった。その理由として、衰退度が中程度の林分のウダイカンバの葉は窒素量が多く、防御物質量が少ないため、食害率が高いことが推察された。一方、最も衰退度の進んだ林分のウダイカンバでは窒素量が少なく、防御形質が顕著であったため、食害が抑えられたと推察された。また、最も健全な林分のウダイカンバの葉は窒素量も多いが、防御物質も比較的多く、個葉面積も大きいことから食害率が低く抑えられたものと考えられた。以上の結果をふまえて、各林分の生育条件の違いが食葉性昆虫の食害状況にどのような影響を与えているのかについて議論したい。

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© 2005 日本生態学会
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