電子情報通信学会 基礎・境界ソサイエティ Fundamentals Review
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ISSN-L : 1882-0875
CCS研究会提案
物質科学と情報科学の融合による高分子ニューラルネットワーク
赤井 恵
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2025 年 19 巻 2 号 p. 105-113

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抄録

ソフトウェアとして実装されてきた今の人工知能は,これからも大きい発展の期待を抱かせるものではあるものの,メモリとCPUが解離した中で人工知能計算を我々の身近なところで利用するには,その電力効率の悪さや通信量増大の面で大きな課題がある.一方で我々の脳は高度なリアルタイム処理を圧倒的に省電力で行えており,これは脳の構成単位である神経細胞(ニューロン)とそれらを繋ぐシナプスが織りなす高密度な三次元ネットワークがもたらすダイナミクスに起因していると考えられている.近年,人工知能処理を加速させる次世代ハードウェアとして,脳の仕組みを物理的に模倣したアナログ脳型コンピュータが注目されているが,提案されているそれらの機構は実際の脳の三次元構造とは大きく解離している.意外なことに,三次元の配線技術は我々の科学技術におけるミッシングテクノロジーである.何もない空間を任意に配線する技術は高い需要があるにもかかわらず実現されていない.脳のニューラルネット構造を三次元構造によって創造することにより,より低コストで低エネルギー消費でありながら非常に複雑な計算を解く人工知能的な構造を構築し得るのではないか,と考えている.本稿では,これらの物質科学と情報科学の融合によって構成する高分子ニューラルネットワークについて,研究分野,現状の課題と筆者らの研究を紹介および解説する.

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