抄録
未知のシステムへの入力と出力を観測することで,そのシステムの伝達特性を推定するシステム同定の問題への取組みの歴史は長く,これまでに一定の理論体系も確立されている.一方で,具体的な応用事例に適用しようとしたとき,その事例特有の前提条件を考慮しながら,理論体系の拡張が必要となる場面にも遭遇する.本稿では,システム同定の最も基本的なアルゴリズムの一つである学習同定法をベースに,拡声ハンズフリー通話などに利用される音響エコーキャンセラへの応用を想定したときに顕在化する課題の解決に向けた取組みについて,最近の研究動向を踏まえて概観する.特に,「線形」から「非線形」への枠組みの拡張をキーワードとして,ロバスト性の向上や,システムモデルへの非線形性の導入を中心に議論する.