抄録
1985年Ganaway et al. [2] は, マウスやラットの慢性呼吸器病の原因のひとつとして新たにCilia-Associated Respiratory (CAR) bacillusを明らかにし, ELISA法を用いたラットのCAR bacillus血清抗体検索成績を報告した。しかし抗原の作製方法や濃度, 陽性限界などの手技は明確にされていない。そこで今回, 我々によって分離されたCAR bacillusマウス由来株 (CB-M) 及びラット由来株 (CB-R) を用いてELISA法による抗体検査法を詳細に検討し, 以下の成績を得た。本法を簡潔に述べると, 抗原を固相化したマイクロプレートのウェルに血清を加え, 反応によって生じた抗原-抗体結合物と, パーオキシダーゼ標識プロテインAまたは抗ラット1g-Gとの反応を, 0-フェニレンジアミンデハイドロクロライドと基質の混合液の492nmにおける発色により検出するものである。2.4×108CB-M/mlあるいは2.0×108CB-R/mlを含む発育鶏卵尿液をPBSで遠心洗浄し, 炭酸緩衝液に浮遊させ, 超音波処理したものを抗原原液とした。抗原の至適濃度を検討した結果, PBSによる40倍希釈CB-Mと80倍希釈CB-Rを抗原として用いた。マウス180, ラット205の被検血清中, CAR bacillus抗体陰性と思われるマウス血清140, ラット血清161の平均OD値はそれぞれ0.005と0.019であった。一方, 感染動物血清のOD値はマウスで0.20~1.43, ラットで0.20~1.52であった。これらの結果からいずれの動物種についても陽性限界OD値を0.1とした。CAR bacillusの感染実験例では, マウス, ラットとも感染4週後に一部が抗体陽性となり, 8週後にはほとんど全ての動物から抗体が検出され, その力価は1: 80~1: 2560であった。なお, 両株間では反応性に特別な差異は見いだされなかった。以上の成績より, CB-MまたはCB-Rを抗原とするELISA法は, マウス, ラットのCAR bacillus症の血清診断に有効な方法であると考えられた。