2015 年 51 巻 12 号 p. 1133-1137
我々は種々の手法を駆使して1次スクリーニング,カウンターアッセイ,それに続いてのヒットバリデーションを実施し,薬剤探索を行う.そうした,いわば過酷な試験をくぐり抜けてきた化合物群の中からでさえ,薬剤として優れた性質を有し,最適化研究に供する価値のある候補化合物を見いだすのは容易ではない.候補化合物の標的への結合は,分子サイズ,化学構造,置換基の種類・数より概算される非共有結合能から,結合親和性,熱力学,速度論などにおいて特徴を見いだせることが多い.こうしたことから,価値のある候補化合物を見いだす,つまり化合物の結合に関する「質」を評価するヒットバリデーションやリードオプティマイゼーションにおいて,物理化学的な解析を可能とする検出技術が注目されている.このような解析装置は,label-free測定,またbiophysical測定と呼ばれている.分子間相互作用には,固有の結合エネルギー(発熱反応または吸熱反応)が存在する.このエネルギー変化を熱量変化として検出できる技術が,等温滴定型熱量計(ITC)である.本稿では,低分子創薬の流れにおいて熱力学的アプローチが活かされるポイントである「ヒットバリデーション」と「リードオプティマイゼーション」に焦点を当て,我々が取り組んでいる研究成果とともにその最前線を紹介する.