抄録
ケトンの不斉還元反応による光学活性第二級アルコールの合成は,長い研究の歴史を経て,ある種のケトン基質についてほぼ完璧なエナンチオ選択性を獲得するに至っている.この研究分野では,将来に向けて「何を作るか」に加えて「どう作るか」を考慮した反応開発が求められている.特に,工業的な大規模合成を志向した場合には,環境調和型の反応設計が必要となるだろう.
筆者らは,これまでに「ケトン類の触媒的不斉水素化反応の開発」をテーマに数々の研究を行ってきた.この反応は図1に示すように,ケトンに水素分子を付加させるだけの最も単純で原子効率100%の物質変換である.反応の進行には「光学活性触媒」が必要であるが,そのエナンチオマーを使い分けることでアルコール生成物の任意のエナンチオマーを高純度に合成することができる.適切に設計された触媒は高い活性を示し,微量添加するだけで大量の生成物が得られる.一般に生成物の単離は容易で,抽出やカラム分離等の煩雑な操作を必要としない.このように,不斉水素化は高効率で環境への負荷が少なく,大規模合成に適した合成反応といえる.