ファルマシア
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ヒトABC多剤排出トランスポーター類似タンパク質の立体構造決定と新規阻害剤の創製
加藤 博章
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2015 年 51 巻 4 号 p. 315-319

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抄録

ATP Binding Cassette(ABC)トランスポーターは,自らATPを加水分解して得られるエネルギーを用いて化合物を輸送する膜貫通型のタンパク質である.そのなかでも,P-糖タンパク質あるいはMDR1と呼ばれるABCB1は,多種多様な化学構造の分子を細胞外へと輸送する多剤排出トランスポーターであり,小腸,血液脳関門,肝臓,腎臓,生殖器に多く発現して,体外から侵入する異物から生体を防御している.しかし,投与した「薬」も排出してしまうことから薬物の吸収を低下させる原因となっており,特に,がん細胞がABCB1やABCC1,ABCG2などを過剰発現させることで,抗がん剤に対する多剤耐性を獲得してしまうことは,がん化学療法の大きな障害となっている.
我々は,ヒトABCB1と構造および機能がよく似たホモログを好熱性真核生物シゾンCyanidioschyzon merolaeから発見し,その結晶構造を最高2.4Å分解能で決定した.さらに,CmABCB1に特異的な阻害剤を作成したところ,予想外の新規な結合メカニズムであることが明らかになった.本稿では,高分解能で明らかになったABC多剤排出トランスポーターの立体構造の特徴と新規阻害剤のメカニズムについて解説する.

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© 2015 The Pharmaceutical Society of Japan
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