2015 年 51 巻 6 号 p. 561-563
最近,薬学部の講義カリキュラムから裁判化学を外してしまった大学が少なくないようで,我々科学捜査研究所(科捜研)の仕事を紹介する機会もほとんどなくなってきた.筆者が学生の頃は,クラブの顧問教授が担当される裁判化学の講義の際には,勉学に燃える真面目な同級生の迷惑も顧みず,男子クラブ員一同講義室の最前列に陣取り講義を受けたものである.残念ながらその講義内容はあまり覚えていないが,とにかく裁判化学という分野の存在を知る機会になったことは確かであり,その講義の甲斐あってか筆者は今,科捜研の職に就いている.
薬学部において,裁判化学が置かれている立場は危機的な状態だが,科捜研への就職を希望する学生は,減少するどころか増加しているようにさえ思われる.これは,国内外で放映される科捜研を題材としたテレビ番組が,内容の真偽はさておき,科捜研人気に拍車をかけているように思える.そこで,科捜研の業務の一端を紹介することにより,テレビ番組以外では触れる機会のなくなった読者特に薬学部生の皆さんに,少しでも裁判化学というものに触れていただき,薬学部出身者が大いに活躍できる場であることを改めて認識していただければと思う.