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セミナー
衛生害虫を対象とした人体用忌避剤の有効性と安全性について
佐々木 智基
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2021 年 57 巻 5 号 p. 392-395

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抄録

近年,虫が媒介する感染症がニュースとなる機会が増えている.2016年のリオデジャネイロオリンピックが開催されたブラジルで,ネッタイシマカが媒介するジカウイルス感染症と小頭症が大きな話題になった.WHOが2019年に発表したリポートによると,2018年の年間のマラリア患者数は2.28億人,死者は40.5万人であるが,このマラリアはハマダラカによって媒介されている.虫が媒介する感染症は熱帯地域で発生を続けており,これらの感染症対策は世界的に重要な課題である.日本でも,2013年に国内で初めて重症熱性血小板減少症候群(通称SFTS)での死者が報告され,マダニ刺咬被害に新しい疾病が加えられた.これ以前にも日本紅斑熱やライム病などがマダニによって媒介されることは知られていたが,SFTSは致死率が30%にも上ることから注目が集まった.2014年には海外渡航歴のない人がデング熱を発症し,162名の感染者が出たが,その際にデング熱を媒介したのはヒトスジシマカだと言われている.日本でも虫が媒介する感染症のリスクが高まってきているのは間違いない.
人に害を与える虫は「害虫」と呼ばれ,殺虫剤での駆除,農薬での防除対象となっている.害虫と一括りにされる虫たちだが,どのような害を与えるかによって細かく分類される.例えば有用作物に害を与える害虫は農業害虫とされ,家屋を食害するものは家屋害虫,衣料を食べる虫は衣類害虫と,害の種類で様々な害虫に分類される.そのなかでも,上記のように感染症を媒介する害虫は衛生害虫と呼ばれ,最も注意すべき害虫であると言える.その対策としては,殺虫剤を用いた駆除やワクチン接種などが有効であるが,虫に刺されないようにすることは感染症対策として有効な手段となる.
本稿では,虫に刺されないようにするために最も広く使われている「人体用忌避剤」について,その種類,有効性,安全性などについて解説したい.

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© 2021 The Pharmaceutical Society of Japan
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