ファルマシア
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期待の若手
NobodyからSomebodyへの模索
井上 飛鳥
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2021 年 57 巻 9 号 p. 853_1

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抄録
多分に洩れず,若手研究者として自己顕示欲に駆られつつも,実力不足でそれが満たされないジレンマにもがいていた10年前を思い出す.勇んで乗り込んだ国際学会ではスター研究者に近づいてもまともに相手にされず,もどかしい思いを何度もした.海外での研究経験がないことを自己弁護にしても道は開けないのは知っていた.職人気質を込めて作ってきたGタンパク質共役型受容体(GPCR)シグナル解析手法には自信があり,これを売り込み続けていると,所々で取り合ってくれる研究者に出会った.食いついたら離すまいと相手の研究室に乗り込むアポを取り付けて,海外へ実験出稽古に行き押し売りを続けた.開発した実験ツールは先行投資のつもりで惜しげもなく配った.売り込みを続けていると,同僚の研究者に取り次いでもらえる機会が増えた.身にしみて感じたのは,口コミの強さである.世の中に五万と存在するGPCR解析手法の中で,わざわざこちらの手法を選ぶ決め手は親しい同僚研究者の評判であることを見聞きしてきた.また,研究内容を信頼してもらうためには,飲みニケーションを通じてお互いの気心を知ることも大事である.海外の学会ではアルコールが尽きるまで居残ることにしている.出稽古修行の総仕上げとして,2019年にデューク大学・Robert Lefkowitz教授(2012年ノーベル化学賞受賞者)の研究室に乗り込んだときは,私がGPCR全般の研究を始めて約10年の月日が経過していた.GPCR分野で認知されネットワークが広がると入ってくる情報が断然増え,潮流を踏まえた先々の先の研究を展開できる利点を実感している.構造から機能をつなぐ領域に私自身の強みを見いだしており,最近取り組み始めた計算科学を組み合わせて,GPCRシグナルの自在な操作とバイアスリガンド創薬の実現を目指している.
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© 2021 The Pharmaceutical Society of Japan
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