ファルマシア
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KRAS G12R選択的に共有結合するα,β-ジケトアミドの発見
今泉 智禎
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キーワード: KRAS, G12R変異, 共有結合, がん
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2023 年 59 巻 6 号 p. 557

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抄録

GTP加水分解酵素の1つであるKRASに特定のアミノ酸残基で変異が生じると,GDPが結合した不活性型からGTPが結合した活性型が優位になる.その結果,下流のシグナル伝達経路が恒常的に活性化され,細胞のがん化が引き起こされると考えられている.KRAS変異のうち,コドン12番目のグリシン(G)がシステイン(C)に変異したG12C変異の阻害剤に関しては,既に上市された医薬品が複数生み出されている.これらは,いずれも変異システイン残基側鎖の求核性の高さを利用すべくアクリルアミドなどのマイケルアクセプターを分子内に含んでいる.一方で,G12D,G12V,G12R,G13D,Q61Lなどの他の変異に関してはシステインのような特異な反応性を示す官能基を有していないため,選択的な阻害剤の上市は未だ成功していない.これらKRAS変異のなかで,G12R変異は膵管腺がん患者の17%に見られており,選択的な阻害剤の開発が望まれている.本稿では,KRAS G12R選択的に共有結合するα,β-ジケトアミド化合物に関する研究について紹介する.なお,この論文を発表したグループは,以前にG12C変異選択的な共有結合阻害剤についてブレークスルーとなる論文を発表している.
なお,本稿は下記の文献に基づいて,その研究成果を紹介するものである.
1) Zhang Z. et al., J. Am. Chem. Soc., 144, 15916–15921(2022).
2) Ostrem J. M. et al., Nature, 503, 548–551(2013).

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© 2023 The Pharmaceutical Society of Japan
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