抄録
ヒトを含むほ乳動物の個体発生は,終末分化した卵子と精子の受精によって誕生する,ただ1つの受精卵から開始される.受精卵は受精直後,ゲノム広範囲なエピゲノム変化と胚性遺伝子の発現惹起を介し,胎盤組織を含む全ての細胞系譜に分化可能な「全能性」を獲得する.その後,受精卵は自身の発生プログラムに従い,細胞分裂に伴う分化と周辺環境との相互作用による自己組織化を繰り返し,250種類以上の細胞組織から成る「個体」を形成することができる.この個体発生制御の複雑で緻密な制御ネットワークの完全な理解には,受精から出生までの細胞系譜の動的変化を生きたまま顕微鏡下で観察・同定することが理想的であるが,ほ乳動物胚は胚盤胞まで発生した後,子宮という特別な環境下で発生を進めるため,着床期ならびに着床後の胚を直接観察することは極めて困難である.この解決策として,近年,子宮に包まれた個体発生をin vitroで再構成する試みが多くなされており,本稿ではAmadeiらの革新的な方法について紹介する.
なお,本稿は下記の文献に基づいて,その研究成果を紹介するものである.
1) Amadei G. et al., Nature, 610, 143–153(2022).
2) Niakan K. K. et al., Nat. Proc., 6, 1028–1041(2013).
3) Sahu S., Sharan S., iScience, 9, 101485(2020).