タンパク質リジン残基のアセチル化は,特に核内タンパク質であるヒストンに対して活発に行われており,アセチル化を担うヒストンアセチルトランスフェラーゼ(HAT),脱アセチル化を担うヒストンデアセチラーゼ(HDAC)のバランスによって制御される.また,アセチル化されたリジン残基(Kac)は,ブロモドメインタンパク質(BRD)などにより読み取られ,遺伝子の発現が制御されている.アセチル化の影響を解明する研究においては,Kac残基の変異導入が想定される.しかしながら,KacはHDACなどにより分解されることから,替わりにグルタミンやBoc-リジン(KBoc)などの利用が検討されてきたが,BRDを標的とする場合にはKacの模倣構造としてこれらの非天然残基が認識されないことが課題であった.本稿では,BRDが認識可能な,非天然アミノ酸の開発研究を紹介する.
なお,本稿は下記の文献に基づいて,その研究成果を紹介するものである.
1) I. Ali et al., Chem. Rev., 118, 1216–1252(2018).
2) S. Kirchgäßner et al., Angew. Chem. Int. Ed., e202215460(2023).
3) J. M. Kavran et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U. S. A., 104, 11268–11273(2007).