2023 年 52 巻 2 号 p. 51-56
In Japan, freshwater fishes are conspicuous in the number of domestic alien species, because they include many commercially important species, some of which have been long and widely stocked, together with the contaminated species. In addition, domestic alien fishes are recently increasing, owing to the rise of online shopping in the 21th century. Hybridization with native species is one of the major problems caused by domestic alien species. Interspecies hybridization possibly causes the extinction of native species, owing to competition and genetic pollution, while intraspecies hybridization embodies the risk of outbreeding depression leading to the decline of native populations. Compared with the former type, the latter type hybridization is generally difficult to detect only by visual inspection. Therefore, in the viewpoint of stock enhancement as well as conservation, it seems necessary that more attention be paid to the stocking of exotic fishes.
外来種とは本来その地域に生息しない生物が人的活動により他地域から持ち込まれたものであり、こうした生物の中には、1)生態系への影響、2)人間の生命・身体への影響、3)農林水産業への影響といった諸問題を引き起こすものが少なからず存在し、これらの問題は総じて外来種問題と呼ばれている1)。外来種はかつては専ら海外から持ち込まれた生物を対象としていたが、21世紀に入ってからは在来種についても自然分布域外に移入されたものは外来種として扱われるようになり、現在、前者は国外外来種、後者は国内外来種と区別されている2)。この理由として、20世紀末頃から日本の生態系において在来種の自然分布域外での出現が目立つようになったこと、またこうした生物が海外からの移入種と同様の問題を引き起こすことが認識されるようになったことが挙げられる3-5)。
国内外来種が引き起こす問題の一つとして、在来種との交雑に伴う遺伝的攪乱(genetic introgression)が挙げられる6)。遺伝的攪乱とは外来種と在来種の交雑個体が妊性を有する場合、交雑の進行により在来種の遺伝的特徴が失われ、最終的にはその地域集団が絶滅に至る現象で、これは種間に留まらず同種内の集団間の交雑でも生じうる7)。本稿では日本産淡水魚を対象に国内外来種による遺伝的攪乱の実態を紹介すると共にこの問題について考えてみたい。
1. 淡水魚はなぜ国内外来種が多いのか日本産淡水魚は国内外来種の数において他の分類群を凌駕しており2)、その理由として、1)遊漁目的の放流(例:アユ Plecoglossus altivelis)、2)水産資源の増大を目的とした放流(例:シロサケ Oncorhynchus keta)、3)水産有用種の放流に付随した非意図的導入(例:モツゴ Pseudorasbora parva)、4)観賞目的の放流(例:ニシキゴイ Cyprinus carpio)、5)観賞魚の投棄・逃散(例:オヤニラミ Coreoperca kawamebari)、6)希少魚保護を目的とした放流(例:ミナミメダカ Oryzias latipes)の6つ要因が挙げられる。日本における淡水魚の移植放流は歴史が古く、ナマズ Silurus asotus とコイは江戸時代から放流が行われていたとされている4)。しかしながら、淡水魚の放流が積極的に行われるようになったのは明治に入ってからであり、特に大正時代に始まった琵琶湖産コアユの放流は内水面漁業の振興を目的として全国規模で行われるようになり、その結果、多くの琵琶湖産淡水魚がコアユの放流に付随して分布を拡大したとされている4,8,9)。その中でも琵琶湖産オイカワ Opsariichthys platypus はコアユの放流に付随して分布を拡大した代表種であり9)、mtDNA の調査において自然分布域外のほぼ全ての地域で琵琶湖産ハプロタイプが検出されているだけでなく、自然分布域内においても過半数の地点から同様のハプロタイプが検出されている8)。このことはオイカワの分布拡大がコアユの放流に付随したものであるだけでなく、その放流規模の大きさをよく物語っている。また、これまでに確認されている淡水魚の国内外来種の7割近くが琵琶湖に生息していることから8)、コアユの放流に付随して分布を拡大したものは少なくないと思われる。20世紀の淡水魚の移植放流の理由は外国産も含め、ほとんどが上記の1-3)と言った水産に関係した理由であったのに対し、21世紀に入ってからは様相が異なり、4-6)の様な水産とは無関係の放流が増えており、この理由として観賞魚ブーム、インターネット通販の登場が挙げられる10,11)。
2. 国内外来種における2タイプの交雑国内外来種と在来種の交雑は生殖的隔離と検出という観点から見て、種間交雑と種内交雑(集団間交雑)の2つに分けて考えるべきと思われる。その理由として種間交雑の場合、例外はあるものの両種の間には一般にある程度の生殖的隔離が存在する事から、仮に F1 が出来たとしても雑種退行により雑種は継代しにくいのに対し12,13)、種内交雑は生殖的隔離が殆ど存在しないことから雑種が継代しやすく、遺伝的攪乱が生じ易いことが挙げられる14,15)。もう一つの理由は種間交雑の場合には親種の形態の違いにより交雑個体の検出が比較的容易であるのに対し、種内交雑の場合、種内変異(地理的変異)が存在する場合には可能な場合もあるものの、一般に形態情報のみによる交雑個体の検出は難しいことが挙げられる8)。
3. 種間交雑における遺伝的攪乱国内外来種と在来種の種間交雑の例として、愛媛県におけるアブラボテ Tanakia limbata とヤリタナゴ Tanakia lanceolata の交雑が挙げられる16)。松山市内の国近川と重信川では1970年代に移入された九州産のアブラボテと在来のヤリタナゴの間で広範囲な交雑が生じており、mtDNA とマイクロサテライト DNA(MS)の分析結果から、交雑個体は継代しているだけでなくアブラボテの mtDNA を有するヤリタナゴが存在することも判っている。Allendorf et al.17)は外来種と在来種の交雑は3タイプに分けられるとし、Type 4は遺伝子浸透を伴わない交雑、Type 5 は広範囲な遺伝的攪乱、Type 6 は在来種の絶滅を含む広範囲な遺伝的混合としているが、MS 情報を用いたアサイメントテストの結果は愛媛県におけるタナゴ2種の交雑は Type 5 の交雑であることを示している16)。国内外来種との種間交雑による Type 5 の交雑としては他にホンモロコ Gnathopogon caerulescens(国内外来種)とタモロコ G. elongatus(在来種)の交雑が挙げられる18)。
4. 種内交雑における遺伝的攪乱紀伊半島最南端に位置する古座川はアマゴ Oncorhynchus masou ishikawae の天然分布域であるが、1970年代半ばから他河川産の養殖種苗の放流が継続して行われている。古座川では下流からの遡上が不可能な隔離水域が複数存在し、こうした水域には在来集団が残存しており、これらは何れも放流個体では見られない mtDNA ハプロタイプを有している14)。また、MS 情報を用いたアサイメントテストにおいてこれらの集団は放流個体とは異なる遺伝的クラスターを形成するだけでなく、放流域の野生個体では在来集団と放流集団のクラスターが混合して見られることから、種苗放流による遺伝的攪乱が生じていることが明らかとなっている。また、古座川のアマゴの場合、朱点、黒斑、パーといった計数形質において在来個体と放流個体は形態的に識別可能であるだけでなく、交雑個体においては放流集団のクラスターの割合と計数形質の間に高い相関が見られることも判っている19)。国内外来種における種内交雑としては他にカゼトゲタナゴ Rhodeus atremius atremius(国内外来種)とスイゲンゼニタナゴ R. a. suigensis(在来種)の交雑を挙げることが出来、この場合には交雑が生じている水域内の集団が雑種個体のみから成る集団、すなわち hybrid swarm7)に達していることが明らかとなっている20)。
5. なぜ、国内外来種との交雑が問題なのか国内外来種と在来種の交雑が問題とされる理由は、遺伝的攪乱を含む在来種ないしは在来系統の絶滅、またこうした絶滅がもたらす地域における生物多様性の低下である3,18)。種間交雑の場合、上述のアブラボテとヤリタナゴの交雑16)のような例外はあるものの一般に雑種退行の発現により雑種は継代しにくいのに対し、種内交雑の場合は生殖的隔離が存在しない事から、雑種の継代と拡散により遺伝的攪乱が生じ易いと言う特徴がある8)。また、種内交雑の場合、古座川のアマゴの様に国内外来種と在来種が形態で識別可能な場合には遺伝的攪乱の存在を視覚的に把握することが可能であるが19)、実際にはこうしたケースは希であり、DNA 分析により始めてその存在が明らかにされるケースは少なくない15)。逆にこうした DNA レベルでのみ検出可能な種内交雑は単なる複数集団の遺伝的混合と捉えられがちであるが、注意すべきは異系交配弱勢(outbreeding depression)21,22)の存在である(図1)。異系交配弱勢とは遺伝的に異なる集団間の交配において生まれた子供の適応度が低下する現象で、メカニズムとしては環境に適応した在来集団の遺伝子群が交雑により崩壊することにより生じるとされ、魚類ではサケ・マス類において多くの報告が存在する23,24) 。筆者らは前述の古座川のアマゴにおいて在来個体と比べ放流個体は成長が悪いだけでなく、生存率も低いことを確認しており、こうした生態的特徴の異なる集団間の交雑が異系交配弱勢により在来集団の適応度を低下させる危険性は高いと見ている(河村・原田、未発表)。

図1.近交弱勢、雑種強勢、異系交配弱勢の模式図。子供の適応度のピークは雑種強勢を表す。雑種強勢と異系交配弱勢の発現様式は種によって異なる。Waples(1995)を一部改変。
日本産淡水魚において国内外来種の数が多いことは上述の通りであるが、もう一つの特徴は国内外来種が絶滅危惧種を多く含むことである(表1)。これまでに確認されている国内外来種のうち過半数が環境省レッドリストの掲載種であり、この中には最も絶滅の危険性の高い絶滅危惧 IA(CR)も少なからず含まれている。このため、絶滅危惧 IB(EN)のカゼトゲタナゴと CR のスイゲンゼニタナゴの交雑と言った絶滅危惧種間での交雑も生じている20)。
表1.淡水魚における国内外来種※1
種ないしは亜種レベルの交雑においては在来種保護の見地から国内外来種は駆除の対象とされるべきであるが、国内外来種と在来種の遺伝的分化が亜種レベル以下の場合は少し事情が異なると思われる。一般に淡水魚における絶滅危惧種は隔離性の高い水域に生息するものが多く、こうした環境下では小集団化に伴う遺伝的多様性の低下ならびに近交弱勢による適応度の低下、即ち genetic erosion25)による絶滅確率の上昇が指摘されている26,27) 。こうした場合、集団救済のための有効な方法の一つとされているのは他集団からの個体導入であり、これは保全の対象となる集団の遺伝的多様性を回復させるだけでなく、劣性有害遺伝子のホモ接合率の低下と雑種強勢により適応度を向上させる効果があるとされ、遺伝的救済(genetic rescue)と呼ばれている28,29) 。絶滅危惧種の場合、他産地の集団との交雑により在来集団の遺伝的救済が期待される場合も有り得ることから、国内外来種と交雑個体の取扱いについては少し検討が必要かと思われる。ただここで注意すべき点は2つあり、1つは先程も述べたように国内外来種と在来種の交雑が遺伝的救済とは全く逆の異系交配弱勢を生じる場合があること、もう1つはこうした交雑は在来集団が持つ遺伝的特徴を喪失させる危険性が極めて高いことである。自然保護においては在来集団の保全が第一目標であるが、究極の目標は種の保全であることから、絶滅確率が高い集団の場合、移入個体との交雑は状況によっては容認せざるを得ない状況も有りうるかと思われる25)。今後の保全遺伝学の課題として、異系交配弱勢を考慮した遺伝的救済技術の開発が必要である。
日本産淡水魚における国内外来種蔓延の最大の理由の一つは水産増殖を目的とした有用種の移植放流であるが4)、こうした放流の背景として内水面漁業における第5種共同漁業権の存在があげられる30)。漁業法第168条において第五種共同漁業権は免許を受けた漁業協同組合に対し、当該水産動物の増殖を義務付けており31)、こうした放流が水産対象種だけでなくこれに付随した他魚種の非意図的導入をも助長している4,8)。また、21世紀に入ってからはインターネット通販の登場とこれに加速された観賞魚ブームにより、観賞魚の投棄逃散は年々増加傾向にある11)。国内外来種の侵入は在来種との交雑を含む生態系攪乱という大きな問題を孕んでおり32)、近年ではこうした問題に対する認識の高まりから、環境省による野生生物のオンライン取引の規制33)、一部の地方公共団体による国内外来種の放逐規制34)などが行われるようになってきている。外来種問題において、在来種の減少は外来種駆除により改善が期待できる場合があるものの、遺伝的攪乱を伴う外来種との交雑においては雑種と在来種の識別に多大な労力と費用を要することから、在来集団の保全・復元は極めて困難である17,35)。したがって、淡水魚における国内外来種による遺伝的攪乱を防ぐためには、法律による放流規制ならびに投棄放流の自粛といったモラル向上に向けた取り組みが重要かと思われる。
本研究を行うに当たり、多くのご協力ならびにご助言を頂きました共同研究者と研究協力者の方々にこの場を借りて厚く御礼申し挙げます。