福島医学雑誌
Online ISSN : 2436-7826
Print ISSN : 0016-2582
症例報告
初回治療から6年後に肺転移にて再発した子宮頸部中腎管腺癌の一例
矢澤 里穂髙橋 俊文古川 結香高梨子 篤浩飯澤 禎之武市 和之
著者情報
ジャーナル フリー HTML

2023 年 73 巻 2 号 p. 37-44

詳細
Abstract

要旨: 子宮頸部に発生する中腎管腺癌は中腎管の遺残組織から発生する稀な子宮頸部腫瘍である。今回,初回治療から6年経過後に肺転移にて再発した子宮頸部中腎管腺癌の一例を経験したので文献的考察を加え報告する。症例は初発時年齢69歳女性,3妊2産。腰痛を主訴に近医産婦人科を受診。子宮腫大を認め,子宮頸部細胞診は異常を認めず,子宮内膜細胞診が陽性(腺癌)のため当科紹介となった。経腟超音波断層検査で子宮頸部に4cm大の充実性腫瘤を認め,子宮鏡検査では腫瘍は頸管内に突出していた。この部位から生検したところ,中腎管腺癌が疑われた。子宮頸部中腎管腺癌の診断にて広汎子宮全摘術と両側付属器切除を施行した。術後の病理組織検査でも中腎管腺癌であることが確認され,腫瘍は子宮頸部から腟壁に及び,右傍子宮組織にも浸潤していた。進行期は子宮頸部中腎管腺癌IIB期であり,術後補助療法として同時化学放射線療法を行った。子宮頸癌手術より6年目に左肺野の病変とCA19-9の上昇を認めた。左肺上葉部分切除を行ったところ中腎管腺癌の再発であった。左肺上葉部分切除18か月後に,右肺野腫瘤の増大を認め中腎管腺癌の再々発の診断となった。これに対してCPT-11の単剤治療3コース実施したところ,右肺野の腫瘤は縮小した。現在,子宮頸癌術後108か月時点でパフォーマンスステータス0の担癌生存の状態である。子宮頸部中腎管腺癌はその発生学的な特徴より術前診断が困難であり,子宮頸部細胞診に異常を認めない場合でも,子宮頸部に充実性病変を認める場合には,本疾患の存在を念頭に置く必要がある。また,本症例のように術後6年経過しても再発する場合があり,長期間のフォローアップが必要である。

Translated Abstract

Abstract : In this case report, we present a rare case of mesonephric adenocarcinoma of the cervix that recurred with pulmonary metastases six years after initial treatment. At first presentation, the patient was a 69-year-old woman, gravida 3 para 2. She presented to a clinic with a chief complaint of lower back pain. She was referred to our hospital because she had an enlarged uterus, cervical cytology showed no abnormalities and endometrial cytology was positive. Transvaginal ultrasound revealed a substantial cervical mass measuring 4 cm, and a biopsy from this site suggested mesonephric adenocarcinoma. A radical hysterectomy and bilateral adnexectomy were performed, and histopathology confirmed the presence of mesonephric adenocarcinoma with extension from the cervix to the vaginal wall and invasion of the right parametrium. The final clinical stage was stage IIB mesonephric adenocarcinoma of the cervix, and concurrent chemoradiotherapy was given as adjuvant therapy. Six years after surgery for cervical cancer, lesions in the left lung field and elevated CA19-9 were observed.  Partial resection of the upper lobe of the left lung revealed a recurrence of mesonephric adenocarcinoma.  18 months later, an enlarged mass was found in the right lung field and a diagnosis of recurrent mesonephric adenocarcinoma was made. After three courses of CPT-11 chemotherapy, the mass in the right lung field shrank and the patient is currently alive with a performance status of 0, 108 months after surgery for cervical cancer. Mesonephric adenocarcinoma of the cervix is a rare and challenging disease to diagnose preoperatively due to its embryological features. The presence of a solid lesion on the cervix, even in the absence of abnormal cervical cytology, should raise suspicion for this disease. Long-term follow-up is crucial as recurrence can occur several years after surgery.

I. 緒言

子宮頸癌はヒトパピローマウイルス(human papillomavirus, HPV)による子宮頸部の扁平・円柱上皮境界(squamocolumnar junction, SCJ)に発生する扁平上皮癌と腺癌が大半を占めるが,HPV非関連子宮頸癌も存在する1)

中腎管(Wolff 管)は女性では性分化の過程で自然退縮するが,その遺残組織は子宮頸部,子宮体部,広間膜,卵巣,卵巣間膜などに存在する2-5)。子宮頸部の中腎管遺残組織から発生する中腎管腺癌は,HPV非関連子宮頸部腺癌の一つである。

中腎管腺癌は子宮頸部のSCJではなく,遺残中腎管組織のある子宮頸部側壁から発生するため通常の子宮頸部細胞診では悪性細胞の検出率が低い1,6,7)。そのため早期発見や術前診断が困難であり,術後の病理組織検査で診断されることが多い8)。また,中腎管腺癌は稀な腫瘍であり標準的治療は確立しておらず,扁平上皮癌や通常の頸部腺癌より予後不良であると報告されている5)

今回,初回治療より6年経過後に肺転移により再発をきたした子宮頸部中腎管腺癌の症例を経験したので,文献的考察を加え報告する。

II. 症例

症例は69歳女性。3妊2産。閉経52歳。既往歴: 糖尿病,高血圧症。家族歴: 特記事項なし。現病歴: 腰痛を主訴に前医産婦人科を受診。経腟超音波断層検査で子宮腫大を認め,子宮頸部細胞診はnegativefor intraepithelial lesion or malignancy(NILM),子宮内膜細胞診が陽性(腺癌)であったため子宮体癌疑いにて当科紹介となった。現症: 身長147cm,体重47kg,body mass index 21.8kg/m2。診察所見:腟鏡診にて出血を認めず,子宮腟部に明らかな腫瘤性病変を認めなかった。内診所見: 子宮は超鶏卵大,両側付属器に腫瘤を触知しなかった。経腟超音波断層検査では,子宮頸部に4cm大の充実性腫瘤を認め,子宮内膜は3mmであった。血液・生化学検査: 血液検査では異常検査所見を認めず,腫瘍マーカーは,SCCが0.6ng/mL,CA19-9が2,677.9U/mL,CA125が119.7U/mLであった(表1)。核磁気共鳴画像(magnetic resonance imaging, MRI)検査では,子宮頸部にT1強調画像で子宮筋層と等信号,T2強調画像で淡く高信号の造影効果を認める3cm大の腫瘤性病変と子宮内腔に液体貯留を認めた(図1a, b)。また,右子宮傍組織への浸潤が疑われたが,膀胱および直腸への浸潤は認めなかった(図1c)。胸部から骨盤部の造影コンピュータ断層検査(computed tomography, CT)検査では,子宮以外の臓器への遠隔転移やリンパ節腫大は認めなかった。画像診断では病変の主座が明らかに子宮頸部にあり,子宮体癌ではなく子宮頸部腺癌の可能性を考えた。子宮ファイバースコープ(HYF type 1T,オリンパスメディカルシステムズ,外径4.5mm)を用い子宮内腔を観察すると,子宮頸管内に腫瘤の一部が確認され,同部位を胎盤鉗子とキュレットを用い生検した。生検部位の組織所見では,粘膜最表層に異型上皮を認めず,上皮下組織から固有筋層内に多彩な組織像が混在した異型細胞の増殖を認め,中腎管腺癌が疑われた。

術前診断は子宮頸部腺癌(中腎管腺癌)IIB期疑いとし(日産婦2011,FIGO 2008)9),広汎子宮全摘術および両側付属器摘出術を施行した。摘出した子宮頸部の腫瘤は4 cm 以上あり,病理組織所見は多彩な組織パターンを有し,立方上皮が小型の腺管を形成し管腔内に好酸性硝子様物質を含む部分(細管状所見,図2c),円柱上皮によって大きな腺管構造を呈する部分(導管様所見,図2d),立方上皮が充実性に増生する部分(充実性所見,図2e),腫瘍細胞が索状に並列する部分(性索様所見,図2f)を認めた。免疫組織化学染色ではcalretinin,GATA3,vimentin が陽性,CD10, エストロゲン受容体(estrogen receptor, ER),プロゲステロン受容体(progesterone receptor, PR)は陰性であった(図3)。上記の所見から,病理組織診断は子宮頸部中腎管腺癌であった。腫瘍は腟壁の上2/3以内,右子宮傍組織(骨盤壁に達しない),子宮体部筋層へ浸潤し,左外腸骨節へのリンパ節転移を認めた。また,腫瘍細胞の脈管侵襲とリンパ管侵襲を認めた。以上から,最終的な進行期分類はIIB期(pT2bN1M0)であった。術後再発高リスク群(骨盤リンパ節転移,子宮傍組織浸潤)のため,同時化学放射線療法(concurrent chemoradiation, CCRT : 全骨盤領域に2.0Gy×5回×5週間照射,シスプラチン40mg/m2×4回投与)を実施。CCRT終了後に退院した。

退院後からのフォローアップは以下の通りであった。術後2年経過まで,1か月毎の診察,腟断端細胞診,腫瘍マーカー検査,6か月ごとのCT検査を実施した。術後2年以降は,3か月毎の診察,腟断端細胞診,腫瘍マーカー検査,6か月毎のCT検査を実施した。術後3年以降は,6か月毎の診察,腟断端細胞診,腫瘍マーカー検査,1年毎のCT検査を実施した。術後4年経過時点で,いずれの検査でも異常所見を認めなかった。

子宮頸癌術後60か月(74歳),CA19-9の値が92.9U/mLと異常高値を認めた。内診,経腟超音波断層検査では,骨盤内に腫瘤を認めず,腟断端細胞診はNILMであった。消化管病変を疑い上部消化管内視鏡検査を実施したが異常を認めなかった。子宮頸癌術後72か月(75歳),CT検査にて左肺舌区末梢に12mm大の腫瘍性病変,右肺下葉に淡い陰影の散在を認めた(図4a)。

左肺病変は原発性肺癌の可能性も考慮し,呼吸器外科にて胸腔鏡下左肺腫瘍生検を施行した。術中迅速病理診断で中腎管腺癌の診断であり,腫瘍から3cmのマージンをとって左肺上葉部分切除を行った。永久病理標本でも迅速病理診断と同様に中腎管腺癌の所見を認め,肺原発の腺癌で陽性率が高いthyroidtranscription factor-110)も陰性であり,子宮頸部中腎管腺癌の再発の診断となった(図4b-e)。右肺の病変についてはCT 検査にて経時変化を見る方針とした。左肺上葉部分切除から18か月後(子宮頸癌術後90か月,76歳),CT 検査にて右肺野病変の増大を認めたため,positron emission tomography/CT(PET/CT)検査を行ったが,同部位への18F-fluorodeoxyglucose(FDG)の集積を認めず,フォローアップを継続した。左肺上葉部分切除から30か月後(子宮頸癌術後102か月,77歳),CT検査にて右肺病変の増大とPET/CTで同部位へのFDG集積認め,子宮頸部中腎管腺癌の再々発と診断した。これに対して,パクリタキセル+シスプラチン(TP)またはパクリタキセル+カルボプラチン(TC)療法を提示したが,末梢神経障害などの副作用への懸念から同意が得られなかった。そのため,タキサン製剤を含まない化学療法として,イリノテカン(CPT-11)単剤治療(100mg/m2,day1,8,15(4週毎))を選択した。CPT-11療法を3コース実施した結果,右肺の転移巣は縮小を認め部分奏効と判定した。子宮頸癌術後108か月(77歳)時点でパフォーマンスステータス0の担癌生存の状態である。治療経過を図5にまとめた。

表1 血液生化学検査所見
図1. 術前のMRI検査写真

MRI検査の縦断像(a : T1強調画像,b : T2協調画像),横断像(c : T2協調画像)。赤矢印は子宮頸部の病変を示す。黄色矢印は右傍子宮組織への浸潤が疑われる所見を示す。MRI : magnetic resonance imaging。

図2. 摘出標本の肉眼写真および病変部位の病理組織写真

肉眼所見: 摘出子宮(子宮前面に割)および両側付属器(a),子宮頸部病変の連続切片(b)。赤色矢印は子宮頸部の病変を示す。子宮頸部病変の病理組織所見: ヘマトキシリンエオジン染色,対物レンズ40倍で撮影(c-f)。細管状所見(c),導管様所見(d),充実性所見(e),性索様所見(f)。

図3. 子宮頸部病変の免疫組織化学染色写真

各種特異的抗体(1次抗体)を用い標的分子の発現を2次抗体にて発色。対比染色はヘマトキシリンエオジン染色,対物レンズ40倍で撮影(a-f)。Calretinin陽性(a),GATA3陽性(b),Vimentin陽性(c),CD10陰性(d),エストロゲン受容体陰性(e),プロゲステロン受容体陰性(f)。

図4. 胸部CT写真と肺転移巣の病理組織および免疫組織化学染色写真

子宮頸癌術後72か月目のフォローアップCT検査写真(a),赤色矢印に病変を認める。病理組織および免疫組織化学染色写真(b-e)。左肺上葉の切除部位の病理組織写真,ヘマトキシリンエオジン染色,対物レンズ20倍で撮影(b)。左肺上葉の切除部位の免疫組織化学染色写真,各種特異的抗体(1次抗体)を用い標的分子の発現を2次抗体にて発色。対比染色はヘマトキシリンエオジン染色,対物レンズ20倍で撮影。Calretinin陽性(c),GATA3陽性(d),TTF-1陰性(e)。TTF-1 : thyroid transcription factor-1。

図5. 治療経過図

RTH : radical hysterectomy, BSO : bilateral salpingo-oophorectomy, CCRT : concurrent chemoradiation, VATS : video assisted thoracoscopic surgery.

III. 考察

中腎管は,別名Wolff管と呼ばれ,妊娠初期に中腎傍管(Müller管)と平行して走行し,男性ではテストステロンの作用により雄性内性器(精巣上体と精管)へと発達・分化する。女性では,男性と異なり,中腎傍管(Müller管)が発達・分化し雌性内性器(子宮,卵管,腟上部1/3)を形成する7)。女性では中腎管は退縮するが遺残組織として,卵巣周辺,広靱帯内,子宮および腟に認められることがある2-5)

女性に発生する中腎管腺癌は中腎管の遺残組織から発生する悪性腫瘍である。子宮頸部側壁の深い部位に遺残する中腎管からの発生が多く報告されているが,頻度は少ないものの,子宮体部の中腎管遺残組織からの発生もある8,11)。病理組織学的には,ムチンを含まない立方上皮に覆われた管状腺,内腔の好酸球性分泌物,中腎管の遺残に由来する充実性乳頭状,管状または網状の構造を有する腫瘍と定義される6,7)

子宮頸部中腎管腺癌の初発症状は通常の子宮頸癌同様に不正性器出血であることが多いが,本症例では主訴が腰痛であった。病変が子宮頸部の深部であることから,細胞診での異常細胞の検出率は約10%と低いことが報告されている8,12)。本症例でも,毎年子宮頸癌検診を受診していたのにもかかわらず一度も異常細胞が検出されておらず,中腎管腺癌の特徴と一致していた。

子宮頸部中腎管腺癌は多彩な組織所見を呈する事から,生検組織の術前診断率は約20%と報告されている8,10)。本症例では病変部位が子宮頸管内に突出し,そこから十分量の生検組織が得られたことが,術前に中腎管腺癌の診断がついた理由の一つと考えられる。子宮頸癌でSCJが視認できないコルポスコープ不適例では,頸管内に病変があり生検が困難な場合がある。田中らは子宮頸部明細胞癌に対して子宮鏡を用いて頸管内の病変を生検し術前診断ができた症例を報告している13)。観察用の子宮鏡には軟性鏡(ファイバースコープ)と硬性鏡があり,今回用いた子宮鏡は軟性鏡であった。軟性鏡は先端が細く曲がることから,硬性鏡と比べ,子宮頸管内や子宮内腔に発生した腫瘤にも侵襲性は低いと考えられた。しかしながら,腫瘍の浸潤度によっては,たとえ軟性鏡であっても,子宮穿孔が起こる可能性は否定出来ない。これまで,子宮頸部中腎管腺癌の術前診断に子宮鏡を用いた報告例はなく,今回の症例では,子宮鏡検査は病変部位を直視出来るメリットがあったが,その実施に当たっては,出血や子宮穿孔などのリスクを勘案して実施することが望ましい。

子宮頸部中腎管腺癌の病理組織診断には,形態的な特徴に加え,免疫組織化学染色が有効である。子宮頸部中腎管腺癌は充実性腫瘍であり,組織学的には管腔状,乳頭状,網状,索状,小嚢胞状など多彩な形態を示し,管腔内にはしばしばPAS陽性の硝子様分泌物が貯留する。また,悪性腫瘍部位の周辺には中腎管の遺残や過形成を認めることが多い6,14-16)。他の悪性腫瘍との鑑別として,免疫組織化学染色にて,CD10,CK7,calretinin,vimentin,epithelialmembrane antigen,PAX8,CAM5.2,GATA3 が陽性,CK20,CEA,ER,PR が陰性である場合,中腎管腺癌の可能性が高いと報告されている2,17-19)。本症例ではCD10は陰性であったが,既報と同じくcalretinin,vimentin,GATA3,PAX8が陽性,ERとPRは陰性であり,中腎管腺癌に矛盾しない結果であった。

子宮頸部中腎管腺癌の予後についてはまとまった報告例が少ない。Prosらは多施設での子宮頸部中腎管腺癌症例をとりまとめ,その臨床的特徴を報告している6)。子宮頸部中腎管腺癌30症例中60%(15/25)がFIGO stage II~IV であり,28%(4/14)にリンパ節転移を認めていた。再発率は50%(12/24)であり,転移部位として最も多いのが肺転移であった。5年無増悪生存率は60%,5年全生存率は74%であった。多変量解析の結果,無病生存率と関連のあったのは進行期のみであり(P = 0.04),年齢,腫瘍サイズ,リンパ節転移に関しては関連を認めなかった。一方,全生存率についてはすべての因子について関連を認めなかった。また,中腎管腺癌は通常型のHPV関連頸部腺癌より予後は不良であるが,胃型頸部腺癌より良好であると報告された。

再発までの期間については,Yapら5)およびDierickxら20)の文献レビューに加え,その後の報告1,21-24)と自験例を含めた49症例について独自に検討を行った。49症例の内訳は,I期35例,II期7例,III期0例,IV期2例,記載なし5例であった。観察期間の中央値は3.0年(4か月~13年),初回治療後の再発率は35%(17/49),再発までの期間の中央値は2.1年(4か月~9年)であった。初回治療から5年以上経過して再発したのは再発17例中5例(29%)であった。

子宮頸部中腎管腺癌は症例が稀であることから,治療に関するエビデンスが乏しく標準的治療が確立されていない。そのため,治療は通常型の子宮頸部腺癌に準じて行われることが多く,腫瘍が限局的であれば根治手術が第一選択として考慮される11)。再発高リスク群に対する術後補助療法に関しても,標準的治療は確立されていないが,子宮頸部腺癌に準じてCCRTが実施されることが多い。子宮頸部中腎管腺癌に対する化学療法についても標準的治療は確立されていないが,再発症例にTC療法が奏功した症例報告もある25)。本症例では,通常型の子宮頸部腺癌に準じて治療を実施したが,初回治療より6年経過後に肺転移で再発した。肺病巣の切除により組織学的に再発を確認したが,その時点では補助化学療法は実施しなかった。その後,切除肺と対側の肺への再々発が疑われ,第1選択としてTPまたはTC療法が考慮されたが,副作用について患者からの同意が得られず,タキサン製剤を含まないレジメンとしてCPT-11単剤療法を選択した。再発子宮頸癌に対するCPT-11を用いた化学療法では,CPT-11とシスプラチンまたはネダプラチンとの併用療法の有効性が報告されている26,27)。子宮頸部中腎管腺癌の再発症例に対してCPT-11が投与され部分奏効した報告はこれまでなく,我々の報告が初めてである。子宮頸部中腎管腺癌の再発に対する治療法については,今後も症例集積による検討が必要である。

IV. 結語

稀な子宮頸部腫瘍である子宮頸部中腎管腺癌の再発症例を経験した。子宮頸部中腎管腺癌はその発生学的な特徴より術前診断が困難である。子宮頸部細胞診に異常を認めない場合でも,子宮頸部に充実性病変を認める場合には,子宮頸部中腎管腺癌の存在を念頭に置く必要がある。また,本症例のように術後6年経過しても再発する場合があり,長期間のフォローアップが必要である。

文献
  • 1.  Reis-de-Carvalho C, Vaz-de-Macedo C, Ortiz S, et al. Cervical Mesonephric Adenocarcinoma : A Case Report of a Rare Gynecological Tumor from Embryological Remains of the Female Genital Tract. Rev Bras Ginecol Obstet, 43 : 329-333, 2021.
  • 2.  Ferry JA, Scully RE. Mesonephric remnants, hyperplasia, and neoplasia in the uterine cervix. A study of 49 cases. Am J Surg Pathol, 14 : 1100-1111, 1990.
  • 3.  Wu H, Zhang L, Cao W, et al. Mesonephric adenocarcinoma of the uterine corpus. Int J Clin Exp Pathol, 7 : 7012-7019, 2014.
  • 4.  Bifulco G, Mandato VD, Mignogna C, et al. A case of mesonephric adenocarcinoma of the vagina with a 1-year follow-up. Int J Gynecol Cancer, 18 : 1127-1131, 2008.
  • 5.  Yap OW, Hendrickson MR, Teng NN, et al. Mesonephric adenocarcinoma of the cervix : a case report and review of the literature. Gynecol Oncol, 103 : 1155-1158, 2006.
  • 6.  Pors J, Segura S, Chiu DS, et al. Clinicopathologic Characteristics of Mesonephric Adenocarcinomas and Mesonephric-like Adenocarcinomas in the Gynecologic Tract : A Multi-institutional Study. Am J Surg Pathol, 45 : 498-506, 2021.
  • 7.  Howitt BE, Nucci MR. Mesonephric proliferations of the female genital tract. Pathology, 50 : 141-150, 2018.
  • 8.  Xie C, Chen Q, Shen Y. Mesonephric adenocarcinomas in female genital tract : A case series. Medicine (Baltimore), 100 : e27174, 2021.
  • 9.  日本産科婦人科学会,日本病理学会,日本医学放射線 学会,日本放射線腫瘍学会,eds. 子宮頸癌取扱い規約.第3版.金原出版,東京,2012.
  • 10.  McFarland M, Quick CM, McCluggage WG. Hormone receptor-negative, thyroid transcription factor 1-positive uterine and ovarian adenocarcinomas : report of a series of mesonephric-like adenocarcinomas. Histopathology, 68 : 1013-1020, 2016.
  • 11.  Park KJ, Kiyokawa T, Soslow RA, et al. Unusual endocervical adenocarcinomas : an immunohistochemical analysis with molecular detection of human papillomavirus. Am J Surg Pathol, 35 : 633-646, 2011.
  • 12.  Anagnostopoulos A, Ruthven S, Kingston R. Mesonephric adenocarcinoma of the uterine cervix and literature review. BMJ Case Rep, 2012, 2012.
  • 13.  田中佑治,松田淑恵,松本有美,他.子宮頸部明細胞 癌の1例.公立甲賀病院紀要,21 : 15-19, 2018.
  • 14.  Meguro S, Yasuda M, Shimizu M, et al. Mesonephric adenocarcinoma with a sarcomatous component, a notable subtype of cervical carcinosarcoma : a case report and review of the literature. Diagn Pathol, 8 : 74, 2013.
  • 15.  福永眞治.中腎癌の細胞像と臨床病理.奈良県臨床細 胞学会雑誌,20 : 33-34, 2019.
  • 16.  Zhang L, Cai Z, Ambelil M, et al. Mesonephric Adenocarcinoma of the Uterine Corpus : Report of 2 Cases and Review of the Literature. Int J Gynecol Pathol, 38 : 224-229, 2019.
  • 17.  Pirog EC, Kleter B, Olgac S, et al. Prevalence of human papillomavirus DNA in different histological subtypes of cervical adenocarcinoma. Am J Pathol, 157 : 1055-1062, 2000.
  • 18.  Howitt BE, Emori MM, Drapkin R, et al. GATA3 Is a Sensitive and Specific Marker of Benign and Malignant Mesonephric Lesions in the Lower Female Genital Tract. Am J Surg Pathol, 39 : 1411-1419, 2015.
  • 19.  Ribeiro B, Silva R, Dias R, et al. Carcinosarcoma of the uterine cervix : a rare pathological finding originating from mesonephric remnants. BMJ Case Rep, 12, 2019.
  • 20.  Dierickx A, Goker M, Braems G, et al. Mesonephric adenocarcinoma of the cervix : Case report and literature review. Gynecol Oncol Rep, 17 : 7-11, 2016.
  • 21.  Ditto A, Martinelli F, Bogani G, et al. Bulky mesonephric adenocarcinoma of the uterine cervix treated with neoadjuvant chemotherapy and radical surgery : report of the first case. Tumori, 102, 2016.
  • 22.  Montalvo N, Redroban L, Galarza D. Mesonephric adenocarcinoma of the cervix : a case report with a threeyear follow-up, lung metastases, and next-generation sequencing analysis. Diagn Pathol, 14 : 71, 2019.
  • 23.  Nili F, Salarvand S, Saffar H, et al. Mesonephric Adenocarcinoma of Uterine Cervix : A Case Report and Review of the Literature. Iran J Pathol, 16 : 227-231, 2021.
  • 24.  Devarashetty S, Chennapragada SS, Mansour R. Not Your Typical Adenocarcinoma : A Case of Mesonephric Adenocarcinoma of the Cervix With Fibroblast Growth Factor Receptor 2 (FGFR2) Mutation. Cureus, 14 : e25098, 2022.
  • 25.  Montagut C, Marmol M, Rey V, et al. Activity of chemotherapy with carboplatin plus paclitaxel in a recurrent mesonephric adenocarcinoma of the uterine corpus. Gynecol Oncol, 90 : 458-461, 2003.
  • 26.  Sugiyama T, Yakushiji M, Noda K, et al. Phase II study of irinotecan and cisplatin as first-line chemotherapy in advanced or recurrent cervical cancer. Oncology, 58 : 31-37, 2000.
  • 27.  Tsuda H, Hashiguchi Y, Nishimura S, et al. Phase I-II study of irinotecan (CPT-11) plus nedaplatin (254-S) with recombinant human granulocyte colony-stimulating factor support in patients with advanced or recurrent cervical cancer. Br J Cancer, 91 : 1032-1037, 2004.
 
© 2023 福島医学会
feedback
Top