抄録
入会林野研究に残された課題は多いが、「村々入会」のような、他村との関係において、いかなるガバナンスが働くのかの検討は未だ十分ではない。一村内における内向きのガバナンスだけでは、「村々入会」で生じる問題は解決されない。「村々入会」について分かる一級の史料は、複数の村々が関わる「山論」である。「山論」に関わる村々にとって、相手方の村々との関係だけでなく、時には領主の統治にも関わらざるを得ない。信州の伊那地方は、江戸時代、「御林」から江戸向けの榑木を生産する村々と、それを支援する「夫食米」を供給する平場の村々を「榑木成村」として組み合わせた統治が行われていた。「榑木成村」を地元とする「村々入会」について、入会林野のガバナンスを検討した。その結果、領主支配におけるガバナンス及び村内でのガバナンスとも異なる、「村々入会」における相対的に独自な「領域支配」のガバナンスを認めることが出来た。