1992 年 32 巻 3 号 p. 9-18
教授メディアとは、教授者と学習者とのコミュニケーションを保障する媒体として規定できる。理科授業の中でも、OHPやコンピュータ等の教授メディアを始め実験・観察機器が盛んに使用されている。しかしながら現在の理科教育においては、実験・観察機器と教授メディアとを分立して位置づける傾向が強い。そこで、まず本稿ではこのような位僅づけの妥当性を吟味するために、理科における実検・観察機器が教授メディアとしての特性を有するか否かについて検討した。次に教授メディアの視点から実験・観察機器利用の現状について再考した。その結果、以下の知見が得られたので報告する。1. 理科における実験・観察機器は、教授メディアの範疇に包摂可能であること。2. 現状の実験・観察機器の利用上の主な問題点として、(a)~(c)を挙げることができる。(a) 教授者と学習者との不共有なルール系の存在が、実験・観察機器を媒体としたコミュニケーションの妨げになること。(b) 現在、実験・観察機器は「五感の延長」として位置づけられており、コミュニケーションの媒体としては捉えられていないこと。(c) コミュニケーションを保障する教授メディアの視点から、実験・観察機器の適正人数が考慮されていないこと。3. 今後、実験・観察機器の教育効果の比較研究よりも、実験・観察機器の個々のメディア特性に関する研究が行われなければならないこと。