日本薬理学雑誌
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新薬紹介総説
アトピー性皮膚炎治療薬タクロリムス軟膏(プロトピック®軟膏)の薬理学的特性と臨床効果
広井 純
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2001 年 117 巻 5 号 p. 351-357

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抄録

アトピー性皮膚炎の発症原因としては, 皮膚バリアー機能の低下及びアトピー(アレルギー)素因が考えられている.アトピー性皮膚炎を誘発するアレルギー反応としてはI型(即時型及び遅発型)アレルギー反応が中心と考えられてきたが, 最近ではIV型(遅延型)アレルギー反応の関与も知られ, 種々のアレルギー反応が複雑にからみ合って発症原因となっていると考えられている.臓器移植時の拒絶反応抑制薬であるタクロリムスは, 上記のいずれものアレルギー反応においても中心的な役割を果たすT細胞の働きを阻害することが明らかとなっており, そのアトピー性皮膚炎の治療薬としての可能性を追求するために軟膏剤(プロトピック®軟膏)を開発した.タクロリムスはin vitroでT細胞のサイトカイン産生を強く抑制する他, アトピー性皮膚炎において関与が考えられているマスト細胞, 好酸球等の炎症性細胞の活性化を抑制し, ランゲルハンス細胞の抗原提示能も抑制した.In vivoにおいてもタクロリムス軟膏は抗原誘発遅発型アレルギー反応モデル, 接触性皮膚炎等の急性皮膚炎モデルに対し有効性を示す他, ラットハプテン連続塗布皮膚炎モデル, NCマウス等の慢性皮膚炎モデルに対しても強い皮膚炎抑制作用を示し, アトピー性皮膚炎における抗炎症効果が期待された.国内での中等度以上の成人アトピー性皮膚炎患者を対象とした臨床実験において本剤は, 躯幹·四肢ではストロングクラスのステロイド難膏並に奏効し, 顔面·頚部ではミディアムクラスのステロイドの作用を上回った.副作用としては一過性の皮膚刺激性が高頻度にみられる他, 皮膚感染症に対する考慮が必要であるが, 長期に用いてもステロイド軟膏にみられる様な局所皮膚障害作用はみられなかった.同様の臨床効果が米国及び欧州でも得られつつあり, 本剤はステロイド軟膏の弱点を補完する新たなアトピー性皮膚炎治療薬として期待される.

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