日本薬理学雑誌
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実験技術
RNA interference(RNAi)を用いた哺乳類細胞での遺伝子ノックアウト
押海 裕之Nasim A. Begum松本 美佐子瀬谷 司
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2002 年 120 巻 2 号 p. 91-95

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抄録
ヒト遺伝子のノックアウトはターゲッティングされた細胞をスクリーニングする必要があったため,時間がかかり,簡単に行うことはできなかった.しかし,最近,線虫で発見された二重鎖RNAを用いるRNA interference(RNAi)法が,哺乳類の培養細胞でも可能になり,ヒト遺伝子の機能阻害は非常に簡単かつ迅速に行えるようになった.我々は,T. Tuschlらの報告をもとに,培養細胞に対しRNAiを行ったところ,細胞内に存在する遺伝子の発現を効率よく抑えることができた.この方法は,合成された約20 bpの二重鎖RNAを形質導入するだけであり,形質導入後,約1週間で結果を得ることができる.また,最近,K. Tairaらによって報告された方法では,RNA polymeraseIIIにより転写されるU6プロモーターを使うことで,細胞内で二重鎖RNAを発現させることで,RNAiを行い,合成されたRNAを形質導入する方法と同程度の阻害効率を達成している.この場合は,合成したRNAを用いる場合とは異なり,ゲノム中に20 bpのRNAを発現させるコンストラクトを挿入することで,恒常的に遺伝子の機能阻害を行うことが可能であるため,非常に有用である.このように哺乳類細胞で遺伝子のノックダウンが簡単に行えるようになったことから,DNAマイクロアレイなどの網羅的な解析から得られた数百の候補遺伝子の機能をRNAiを用い網羅的に調べることも現実的になってきた.RNAi法が以前から確立している線虫では,最初の報告から数年でRNAiが日常的に行われるようになっており,哺乳類細胞でのRNAiは昨年に報告されたばかりの新しい技術であるため,この技術を使った解析を行っている論文は,まだ少ないが,ほとんど全ての遺伝子に対し効果があることや,簡単に行えることから,今後,数年の内に,頻繁に行われるようになると推測される.
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© 2002 公益社団法人 日本薬理学会
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