抄録
アデノシン三リン酸(ATP)感受性カリウム(K+)チャネル(以下,KATPチャネルと略記)は膵臓β細胞,心筋,平滑筋等の細胞に広汎に分布し細胞内代謝によりチャネル開口機構が制御され細胞の膜電位の維持に深く寄与している.平滑筋細胞においてKATPチャネルは静止膜電位の維持や筋緊張の維持および弛緩機序に関与していると考えられている.また膀胱平滑筋の静止膜電位は,他の平滑筋細胞に比し比較的浅くこのチャネルの開口を介して筋弛緩に直結する膜過分極反応が惹起すると考えられる.これまでに開発されてきたKATPチャネルを標的イオンチャネルとするKATPチャネル開口薬は,膀胱平滑筋の弛緩により不安定膀胱の治療効果の有用性が認められているが,主に心血管系の重篤な副作用により未だほとんど臨床応用には至っていない.現在,KATPチャネル開口薬の検索においてはその臓器選択性の有無が必要不可欠と考えられるようになってきた.近年の分子生物学的手法によりKATPチャネルは少なくとも2種類の異なるタンパク質,すなわちチャネルポアを形成する内向き整流性K+チャネル(inwardly rectifying K+ channel: Kir)とスルフォニルウレア受容体(sulphonylurea receptor: SUR)より構成されることが明らかとなった.KirとSURにはそれぞれ数種類のサブタイプが存在しそのサブタイプの組み合わせが臓器によって異なりそれぞれの臓器におけるKATPチャネルの薬理学的特性を決定していると考えられる.