日本薬理学雑誌
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ミニ総説号「チロシンキナーゼの標的治療薬」
抗腫瘍薬の分子標的としてのチロシンキナーゼの重要性
丸 義朗
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2003 年 122 巻 6 号 p. 473-481

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抄録
Retrovirusの癌遺伝子の正体が,活性化型tyrosine kinase(TK)であることが明らかにされて以来,TKは細胞増殖の基本的存在であると認識されてきた.一方で,ノックアウトマウスなどの最近の実験的手法によってさまざまなTKの機能が追求されている.細胞死,細胞死抵抗性,神経や血管などの細胞分化,リンパ球の活性化などの免疫機構,血管新生,個体の発生などへの関与である.TK型受容体から出発する増殖シグナルは基本で,リガンドの結合依存性に2量体を形成し,自己リン酸化で活性化する.その後,RasやPI3キナーゼにはじまるシグナル経路が活性化される.恒常的活性化型細胞質内TKは膜受容体の膜での活性化をバイパスしてこの両シグナル経路を活性化する.結晶構造解析によって,TKはN-lobeおよびC-lobeからなるbilobularな基本的構造を有し,その間のcleftが活性中心でcatalysisが起ることが明らかになった.さまざまな基本骨格をもつTK阻害薬が存在するが,これらはすべて,ATPのアデニンとの類似性などから,2つのlobeのインターフェースに結合してATPと競合的に作用する.一次構造上相同性が高いだけでなく立体的基本構造が同じなため阻害薬としてその特異性が重要であることは明白である.しかし,例えば標的TKが複数のシグナル伝達経路の交差点に位置する場合では,生化学的特異性のみでは優れた薬効は期待できない.なぜなら,そのTKの上流に存在する複数の分子(例えばチロシンキナーゼ型受容体とその上流にある複数の異なるリガンド)の最終的な生物学的機能が異なる可能性などがあるからである.また,標的TKが腫瘍増殖に優位に働いていても,他組織の細胞で生理的に機能している同じTKが存在する場合,その抑制は予期せぬ有害事象をもたらす可能性をもつと考える.シグナル伝達や分子生物学的な病態の把握は標的薬の薬理を支える基盤を提供すると考える.
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© 2003 公益社団法人 日本薬理学会
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