日本薬理学雑誌
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ミニ総説「新規薬物標的としてのメカノトランスダクション機構の解明とその応用」
メカノセンシタイザーとしてのリゾホスファチジン酸の役割
大幡 久之新岡 丈治金 明淑安藤 さなえ山本 雅幸百瀬 和享
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2004 年 124 巻 5 号 p. 329-335

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抄録

細胞は,液性・化学因子に加えて,機械的,物理的因子を刺激として受容し,様々な細胞応答を起こす.例えば,血流の局所的な制御には,血流刺激による血管内皮細胞からの血管トーヌス制御因子の放出が重要な役割を果たしている.しかし,これらの機械刺激の感知機構の実体は未だに不明である.著者らは,生体活性リン脂質の一つであるリゾホスファチジン酸(LPA)が培養平滑筋細胞や培養水晶体上皮細胞などと同様に培養ウシ大動脈血管内皮細胞の流れ刺激により誘発されるCa2+応答を著明に増強することをリアルタイム共焦点顕微鏡を用いて画像化することにより明らかにした.この時認められるCa2+応答は,機械受容チャネルからのCa2+流入とその拡散による局所的なCa2+上昇から成る時空的特徴を持つ現象であり,機械受容応答の初期過程に直結したエレメンタリーイベントとしてCa2+ spotsと命名した.この現象が血流中に存在しうるLPA濃度と生理的な流れ刺激強度の範囲で生じることから,LPAが機械受容機構の内因性の制御因子である可能性が示唆された.また,最近,組織構築を維持したマウス大動脈中の内皮細胞においてもほぼ同様の現象が生じることを確認し,上皮細胞や内皮細胞で認められる普遍的な現象であると考えられた.本稿ではLPAが機械受容応答の感受性を増強する内因性物質(メカノセンシタイザー)として機能する可能性を示し,さらにはその生理的病態生理学的意義について考察する.

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© 2004 公益社団法人 日本薬理学会
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