日本薬理学雑誌
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シリーズ:ポストゲノムシークエンス時代の薬理学
ケモゲノミクス
江口 至洋
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2005 年 125 巻 6 号 p. 365-371

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抄録

1990年代に急速に進展したゲノムプロジェクトは新たな研究領域を数多く生み出してきている.化学と遺伝学の融合研究領域であるケモゲノミクスもその一つである.工学システムでも生物学システムでも同じであるが,当該システムの構造や機能を理解するためには,システムに摂動を与え,その結果もたらされるシステムの変動を解析することが一般的になされる.遺伝学研究では,生物にランダムな変異を生成させ,研究対象となる表現型をもたらす変異体のスクリーニングを行い,当該変異をもたらす遺伝子の同定を行うことにより,遺伝子,タンパク質の機能解析が進められている.ケモゲノミクスでは,変異の代わりに低分子化合物による外乱を利用する.ケモゲノミクスでは,細胞内に存在する多くのタンパク質の機能に外乱を与えたり,研究対象となる表現型をもたらすための外乱を加え,その遺伝学的な効果を高速に計測する必要がある.そのために,研究目的に応じ設計された化合物ライブラリーの創製,ハイスループットスクリーニング系の開発,体系的なターゲット同定法の開発などが進められている.ケモゲノミクスの研究方法は1990年代以降,標的タンパク質の探索や薬剤の作用機序の解明,さらには広くネットワークシステムとしての生命現象のメカニズム解明に用いられている.これらケモゲノミクス研究を支えるための国際的な研究情報基盤として化合物情報を核にしたデータベースKEGG/LIGAND,PubChem,ChEBIが構築されている.ケモゲノミクス研究を十全に進めるためには,化学と遺伝学の融合と共に,薬学,工学,情報学等との連携も必要とされる.

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© 2005 公益社団法人 日本薬理学会
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