日本薬理学雑誌
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新薬紹介総説
再発又は難治性急性前骨髄球性白血病治療薬,三酸化ヒ素(トリセノックス注10 mg)の薬理学的特徴と臨床効果
田島 雅也
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2005 年 125 巻 6 号 p. 389-396

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抄録

トリセノックス注10 mg(Trisenox®)は三酸化ヒ素を有効成分とする注射剤(静脈内投与)であり,再発又は難治性急性前骨髄球性白血病(acute promyelocytic leukemia:APL)治療薬である.三酸化ヒ素はAPL細胞に対してアポトーシスを誘導し,またAPLの発症原因であるPML-RARα融合タンパク質の分解を引き起こすことが明らかとなっているが,その詳細については十分に明らかになっていない.しかし,最近の研究から,三酸化ヒ素がPML-RAR α融合タンパク質のPML部分のSUMO化を誘導し,この作用がAPLに対する薬理作用に必須であるとの知見が得られている.薬物動態的には,米国でのPhase I/II試験において静脈内投与後の血漿中のヒ素濃度は,投与終了時付近で最高濃度(Cmax)となり,以後徐々に低下した.Cmaxの平均値は27.4±9 ng/mL(範囲:18~48 ng/mL)であった.1990年代に中国から三酸化ヒ素が初発APLのみならず再発したAPLに対しても高い有効性を示すことが報告され,米国での再発又は難治性APLを対象にした臨床試験でも高い完全寛解率が得られた.日本国内においては,治療研究が浜松医科大学で実施され,米国と同等な成績が得られている.米国では2000年9月,欧州では2002年3月に承認され,現在,Cell Therapeutics社より欧米各国で販売されており,再発又は難治性APLに対する第一選択薬となっている.国内においても2004年10月に承認が得られた.本剤による重大な副作用として,QT延長,APL分化症候群,白血球増加症があり,投与中はこれら副作用に対する適切な処置が求められる.本剤はこれまで有効な治療法のなかった再発又は難治性APLの治療に貢献しうるものとして期待される.

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© 2005 公益社団法人 日本薬理学会
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