日本薬理学雑誌
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特集:薬理学における痛み研究の新しい潮流
痒みに関する脳機能イメージング研究の展開
望月 秀紀谷内 一彦
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2006 年 127 巻 3 号 p. 147-150

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抄録

ポジトロン断層影像法(PET)など脳機能画像法が開発されたことによって,これまで研究することが困難だった中枢レベルの痒みの研究が可能となった.現在,中枢における痒みのイメージング研究において2つの展開がある.ひとつは“痒み”という感覚が脳内でどのように作り出されているのか,そして,もうひとつは,中枢神経系を介した痒みの抑制システムの存在についてである.痒みと痛みは同じ末梢神経線維によって伝達されるにもかかわらず,私たちはそれらを異なる体性感覚として知覚する.その違いが脳内でどのように作り上げられているのかが最近のPET研究によって明らかにされつつある.痒みと痛みの脳内ネットワークは非常によく似ているがいくつかの相違点があると考えられている.例えば,痛みの認知に関係する視床や二次体性感覚野は痒み刺激を与えてもあまり反応しない.このような脳内ネットワークの違いが,痒み・痛みといった感覚の違いを作り出している可能性がある.アトピー性皮膚炎や花粉症などのアレルギー疾患は,現在,国民の3割が患う国民病として知られており,その治療法の開発が強く望まれている.特に,アトピー性皮膚炎患者の場合,掻きむしる行為が原因で症状が悪化する.痒みの治療法として,抗ヒスタミン薬など薬剤治療が一般的に用いられるが,それでも痒みの治療は多くの問題を抱えている.その問題のひとつは,心理的ストレスによる痒みの悪化である.逆に,趣味に没頭しているときなどは痒みが軽減される.このような現象から,脳内に痒みを増減するようなシステムが存在する可能性が指摘されている.我々は痒みに関するPET研究から,中脳中心灰白質を中心とした痒みの中枢性抑制システムの存在をヒトにおいて証明した.今後,中枢性痒み抑制メカニズムによる痒みの新たな治療薬の開発が期待される.

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