2006 年 127 巻 3 号 p. 171-175
がんは化学的,機械的刺激を受容する様々な受容体を一次知覚線維上に発現することにより,持続的に一次知覚線維を刺激する.次第に痛覚過敏やアロディニアといった疼痛伝達系の感作から強い痛みを発生するようになる.強い痛みの持続は脊髄の感作や内臓-体性収束などのメカニズムにより関連痛と呼ばれる病巣から離れた部位に痛みを発生させる.がんの痛み治療の基本的考え方は原因病巣からの侵害入力を遮断して疼痛伝達系の感作を予防することである.基本的に腫瘍増殖に伴う侵害受容性疼痛であるので,WHO3段階除痛ラダーに従い,痛みの程度に合わせて非オピオイド,オピオイドを組み合わせて除痛を行う.オピオイドは徐放製剤に加えて残存する痛みに速やかに対処するための速効性モルヒネをレスキューとして準備しておく.オピオイドの必要量には個人差が大きい.レスキュー使用量を徐放製剤に上乗せしていくことで,眠気や呼吸抑制の出ない適切な徐放製剤必要量をタイトレーションすることが一般的である.嘔気・嘔吐,便秘といったオピオイドの副作用には予防的に対処する.腫瘍による神経根や脊髄圧迫に伴う神経障害障害性疼痛に対しては抗うつ薬や抗けいれん薬などの鎮痛補助薬を用いる.がん患者の痛みは身体的な痛みに加えて不安,抑うつなどの精神的痛み,役割の喪失や経済的問題などの社会的痛み,死を意識する病気を前にして,生きることに意味を見出せなくなる霊的痛みなどが発生する.がん患者の除痛にあたっては身体症状を緩和する医師,精神症状を緩和する医師,がん専門看護師,薬剤師,ソーシャルワーカー,栄養士,理学療法士など多職種がチームを組むことで,患者,家族の希望に沿った全人的ケアを行うことが重要である.