日本薬理学雑誌
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特集:薬理学における痛み研究の新しい潮流
日本における慢性疼痛保有率
服部 政治
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2006 年 127 巻 3 号 p. 176-180

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抄録

〈目的〉近年,「痛み:Pain」が5番目のバイタルサインとして治療の質向上のため重要視されるようになった.欧州や米国では患者のPainに関した大規模調査が行われ,国民のPain保有率や患者意識調査の報告がなされているが,本邦では大規模調査は行われていなかった.そこで今回,痛みからの解放を目指した医療の質向上のための基礎的資料作成のため,日本での慢性疼痛の有病率の推定,疼痛部位の特定,慢性疼痛保有者の医療機関への通院治療状況に関する大規模調査研究を実施した.〈対象と方法〉調査は,インターネットで行い,第1次調査として一般生活者30,000名の中から慢性疼痛保有者を抽出するためのスクリーニング調査,第2次調査として1次調査で抽出された慢性疼痛保有者の疼痛に関する詳細と治療状況の調査の2段階で行った.〈結果〉一次調査:回答を得られた18,300名の回答から,慢性疼痛のスクリーニング条件を満たしたものは,2,455名(13.4%)であった.最も多い症状としては腰痛が58.6%と多く肩痛が次いで多かった.この2,455名により詳しい二次調査を実施した結果,「痛み」のために仕事・学業・家事を休んだことがあると答えた方は34.5%であった.痛みに関する治療は95.4%の方が原因となる疾患を治療している医療機関で受け,満足のいく程度に痛みを和らげたとする方は22.4%であった.診療科では,痛みの治療に整形外科を受診している方が45%と第一位である一方,ペインクリニックを受診している方は0.8%と低値であった.〈結論〉日本では,約13%の方が生活や仕事になんらかの支障を来たす痛みを保有していたが,治療によって満足な痛みの軽減は得られておらず,疼痛治療を専門とする医療機関の充実がこれからの重要な課題のひとつであると思われた.

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