日本薬理学雑誌
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特集:生活習慣病の治療戦略
PPARs阻害による大腸癌細胞でのアノイキス誘発と浸潤転移抑制への応用
高橋 宏和中釜 斉
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2006 年 128 巻 4 号 p. 231-234

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抄録
脂肪細胞の分化誘導因子として研究されてきたPPARγ(Peroxisome Proliferator-Activated Receptor gamma)は脂肪細胞および腸管に発現が認められているが,近年ほとんどすべての癌において多量に発現していることが報告されており,PPARγが癌に対し何らかの作用を有することが示唆されている.これまでPPARγの活性化が抗炎症作用・発癌抑制作用を示すことを報告してきたが,抑制した場合の作用は明らかにされていない.PPARγ阻害薬は培養癌細胞において接着・増殖・転移能を減少させ,アノイキスをきたした.アノイキス(anoikis)とは足場を確保できない細胞がアポトーシスを起こす現象である.阻害薬の作用解析がPPARγの機能を解明する上で重要であることが示唆された.PPARγのリガンドはインスリン抵抗性改善薬として安全性が確立し臨床応用されているが,阻害薬では現在認可されているものはなく作用機序・安全性などを詳細に解明することにより癌浸潤・転移抑制の分子標的として既存の抗癌剤との併用による相乗効果の誘導,副作用の軽減,QOLの維持など臨床応用への可能性が考えられる.また,われわれはマウス発癌モデルにおいてPPARγのリガンド投与が大腸癌の発生のみならず大腸前癌病変であるAberrant Crypt Foci(ACF)の発生を抑制し,化学発癌予防に有効であることを世界に先駆けて報告してきた.近年,拡大内視鏡の進歩によりヒトにおけるACFの観察が可能となったが,PPARγリガンド投与でヒト大腸ACFが消退・消失することが確認できた.ACFをメルクマールとしたPPARγリガンドによる大腸化学発癌予防のトランスレーショナルリサーチを現在検討中である.
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© 2006 公益社団法人 日本薬理学会
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